BBTime 237 ゆるみ防止

BBTime 237 ゆるみ防止
「朝ぐもりはめても落ちる鍋のねじ」水津奈々枝

鍋のネジならまだしも落ちて困るのは「試験」と「入れ歯」。今回は入れ歯のゆるみ解消についてのお話。先日、男性患者さんが「私は歯で困りました。色々と探してやっと辿り着いた歯医者さん(現在閉院)でこの入れ歯(上の総入れ歯)を作ってもらいました。その時、自分の経験から「外したら(夜、外して寝たら)合わなくなる」と思いキレイに洗ったあとは、いつも(毎晩)はめて寝ました」とのこと。確かにその方の入れ歯はぴったりして外そうとしてもなかなか外れません。今回、入れ歯の歯(人工歯)が外れて修理希望で来院。

この話を聞いて「なるほど」と考えさせられました。昔は「夜は歯茎を休めるために外してお休みください。義歯は乾燥を嫌いますので水に浸けておいてください」と全ての患者さんに伝えていました。ある時、40代女性前歯の部分入れ歯の患者さんが「私は嫌です」とポツリ・・なるほど歯が無い寝顔を見せたくない。その方には必ずキレイに洗ってからお休みくださいとアドバイス。

阪神・淡路大震災をきっかけに「外して寝る」が変化してきたと聞きました。震災発生は平成7年1月17日朝5時46分真冬早朝、多くの方が入れ歯を外して寝てらっしゃいました。着の身着のまま逃げ出され避難所へ・・カップラーメンは届いたものの義歯がないため食べられなかった・・。就寝中に歯茎を休める、就寝中に口の中の細菌が増殖するので(口の活動減少のため)外した方が良いなどの理由によって「夜は外してお休みください」と説明してきましたが、小生の意見は「痛くなければキレイに洗って口の中へ」です。

画像のようなジェル状の歯磨き粉やリステリンを使って義歯をつけたままおやすみなると、就寝中の雑菌発生をさらに抑えることができると思います。冒頭の男性の方のコメントに「外して寝ると、朝起きて入れ歯を入れるとしっくりこない、このため外して寝ちゃいけないと思いました」と。顎の骨の形はすぐさま変化はしませんが、骨の上の粘膜(歯ぐき)は容易に形を変えます。加えて口の周りの筋肉、特に口輪筋(こうりんきん)は言わば大きな輪ゴムのような形で、入れ歯を入れていないと縮んでしまいます(恐らく)。デンチャーゾーン(入れ歯領域)という専門用語があります。シンプルに言えば入れ歯を外していると、本来入れ歯の収まるべき空間が狭くなり、より外れやすくなると言えるのではないでしょうか。

傷んだ歯ぐきを休めるために外しなさい・・これは筋違いです。歯茎が痛むのは義歯が合っていないからで調整が必要です。噛んで痛くない入れ歯(健康な入れ歯)で日常使いに支障のない方は、お休み前には「今日一日感謝」の意を込めてキレイに洗っていただきジェルかリステリンなどをつけて口の中へ。

日々の臨床(歯科治療)でつくづく思うことに「近頃、義歯がキレイになった」です。これは義歯洗浄剤メーカーのテレビコマーシャルが功を奏して「義歯は洗浄剤で洗うものだ」が浸透した結果だと思います。確かに義歯がキレイだと誤嚥性肺炎防止にも繋がります。かといって邪推かもしれませんが過度な洗浄を煽っているように思えるのです。「入れ歯全体を5分から一晩をめどに洗浄液に浸してください」これはあるメーカーの説明書きです。「五分から」と言うことは五分でほぼ洗浄効果は発揮され、それ以上はあまり効果ありませんとも読めます。

ついでに言わせてもらえば、洗浄剤メーカーは義歯安定剤も「入れ歯には安定剤しようが絶対必要」のような広告を流しています。安定剤使用は汚れの残りやすい場所を増やします、すなわち誤嚥性肺炎防止の逆です。恐らくメーカー側は毎日新しい安定剤を使って(安定剤の消費拡大推進)義歯をキレイに使用してくださいとアナウンスしているでしょうが現実は違います。決して安いものではありませんから。

近い将来「人生百年」時代到来です。今年明治維新150周年ですが、明治維新の頃の日本人平均寿命は約42歳、戦後初1947年の調査で初めて男女ともに50歳を超えました。日本人平均寿命が50歳を超えて70年後の今、男性81歳女性87歳です。歯を失うと言うことは人の寿命より歯の寿命が短いと言うことです。失って手にする口にするのが入れ歯です。歯科医師も入れ歯利用者の方も改めて「入れ歯のウソホント」を見直すべきだと思いますね。「健康入れ歯」:問題ない入れ歯とは?健康入れ歯の日々の使い方・お手入れの方法は?6130
今回の一言:健康入れ歯とその使い方について見直し必要