108cafe 002 橋の下の力持ち

108cafe 002 橋の下の力持ち
「名月や橋の下では敵討ち」野坂昭如

句の作者名を見て「?」。野坂昭如氏は小説家だと思っておりました、ウイキペディアには「作家、歌手、作詞家、タレント、政治家」とあり俳人を加えればまさに八面六臂(はちめんろっぴ)。敵討ち(かたきうち)とは物騒な話ですが、今回ポンティックと歯肉のせめぎ合いについて。以下ラボへのレポートより。

「橋の下」:先日、ラボの社長さんとの会話でポンティック基底面について。6番欠損の567のブリッジ、5番7番はインレータイプの場合に起こりうること。「橋の下」はお分かりと思います。ポンティック=橋(pontic 橋桁:はしげた)の下で基底面と基底面に接する歯肉のことです。
「橋の下は力持ち!」インレーブリッジでたまに遭遇する症例が脱離です。ブリッジ脱離で来院され戻そうとすれど入らず・・「いつ外れました?」「昨日です」「?」・・犯人は「橋の下の歯肉」歯肉がブリッジを持ち上げて外れたんです。指で強く押して戻そうとしても、インレー体と支台歯は合わず(浮いており)よく見るとポンティック部の歯肉が真っ白。ポンティック基底部で押されて歯肉が貧血状態。フィットチェッカーで調べてみると案の定、基底面が歯肉を押している・・というより歯肉が基底面を押し上げている!結果・・脱離。

強く当たっている部分(基底面メタル)を削合するとすんなり入ります。削合部分を鏡面研磨して再セットしました。「えっ?そんなこと起きるの」「ハイ、起こるんです」
ブリッジ基底面の問題発生は大方二つ。1)一番多いのはポンティック基底部と歯肉の間にプラークがたまり炎症を惹起(じゃっき)して、炎症性の歯肉がポンティックを包み込むように腫れてきます。症状として出血、咬合時疼痛、咀嚼時疼痛など。この場合は、まずフロスを通し清掃し抗生物質入り軟膏を間に入れます。だいたいこれで解決します。解決しなければ除去・再製となります。
2)もうひとつがたまに起こる「橋の下は力持ち」で脱離。強く当たっている部分(基底面メタル)を削合して削合部分を鏡面研磨して再セットします。

実は似たようなことがPDでも起こるんです。上顎6番欠損一本義歯の例。義歯当たりが出て(咬むと痛い)、しばらく使用せず来院。はめようとしても合わず、フィットチェッカーで調べると欠損部のみ当たっています。削合研磨して使用可能に。抜歯窩に根の陥没がある場合はワックスで埋めてから床のワックスアップしてください。増歯修理のリベース時も要注意です。抜歯窩に入ったレジンの足を削合してください。レジンの足そのままだと抜歯窩の治りも良くないです。

というわけで皆様(技工士の方)にお願いしたいのは患者さんがフロスで清掃可能な基底面形態を付与してほしいこと。抜歯窩形態によっては鞍状型(あんじょうがた:歯肉が凸で基底面が凹)も見ますが、清掃できないので小生としてはやめてほしいところです。鞍状型を指示するのは歯科医師ですがね・・(苦笑)。6560

108cafe 001 ABC

108cafe 001 ABC
「竹馬やいろはにほへとちりぢりに」久保田万太郎

connote.jp:カノートはここ数年ほとんどが「BBtime:ビービータイム」でした。今回久しぶりに新ジャンル誕生です。「108cafe:いればカフェ」!
BBTimeは一般の方々向けに歯科予防をメインにBrush Beat Time:ブラッシュビートタイムで「ブログ読んで音楽聴きながら楽しく歯磨きしてほしいな」が狙いです。この度ひょんなことから「108cafe」スタートします。先日、技工士の方と話をしていて技工物納入後の報告の必要性を痛感し、報告メールをするようになりました。そこに二つ三つ技工のヒントになるようなことを書くようにしたところ折角なのでブログにアップしようと思い「108cafe」の始まり始まり!一般の方にはちと理解しにくい内容もあると思いますがご容赦のほど。今回001第一回目ということで「ABC」日本語で「いろは」です。

ある日の報告より
「多くの総義歯患者さんは「痛み」「不安定」「ゆるい」などの主訴で来られます。この症例は未確認ですが、下顎を数本抜歯しての初総義歯のようです。そうであればなおさら!まず増歯して、とりあえずであっても食事可能な総義歯まで調整すべきです→これこそ総義歯における治療なんです!新総義歯を作ることだけが治療ではありません。食べられるようにすること、話すことができるようにすること、笑顔を作ることが義歯の治療であり、醍醐味なんです。旧義歯(現義歯)増歯をなぜ(歯科医師は)しないのでしょうか?子供だって、いきなり二輪自転車には乗れません。三輪車で練習します。

多数歯欠損上顎PDの方(女性)、上顎前歯増歯必要で印象預かりラボ修理を説明しました。前歯ゆえ始め難色を示されましたが、説明して預かりました。つい先日、新義歯をセットしました。春の連休直前からのことでしたが、ご本人は非常に喜んでおられました。FDのみならずPDでも同じです。増歯は必要です。PDからFDになった場合、特に初総義歯の方には次の手順が必要だと思います。合わない総義歯の方も同じ。簡単ですABC!「A=安定のA B=バイト:咬合のB C=complete denture:コンプリートデンチャー:総義歯のこと。(海外ではフルデンチャーとはあまり言わないのです)安定させ(A)、噛めるようにして(B)、初めて新義歯(C)に入ることができるのです。繰り返しますが、新義歯作成=義歯の治療ではありません。まず安定(A)させないと噛めません(バイト:B)のでABCの順序です。ラボのみなさんが届いた模型を見て「これマジ?」「どうやって作るの?」と素直に思う症例は、印象した歯科医師に問題・責任ありです。インレーでもクラウン、ブリッジでも同じです。つまり、まだ印象すべき状態ではないのです。形成不備・歯肉炎症あり・デンチャースペースを確保していない・・等々。ちなみにこれは小生の臨床経験による私見(個人的な意見・見解)です。

掲句は「竹馬」が冬の季語です。解説が非常に深いので全文御紹介。「たいていの歳時記の「竹馬」の項に載っている句。小学時代以来の親友の篠原助一君(下関在住)は、会うたびに「なんちゅうても、テッちゃんとは竹馬(ちくば)の友じゃけん」と言う。聞くたびに、いい言葉だなあと思う。もはや死語に近いかもしれぬ「竹馬の友」が、私たちの間では、ちゃんと生きている。よく遊んだね。そこらへんにいくらでも竹は生えていたから、見繕って切り倒してきては、竹馬に仕立て上げた。乗って歩いているときの、急に背が高くなった感じはなんとも言えない。たしかアンドレ・ブルトンも言ってたけれど、目の高さが変わると世界観も変わる。子供なので世界観は大仰だとしても、この世を睥睨(へいげい)しているような心地よさがあった。揚句の「いろはにほへと」には、三つの含意があると思う。一つは竹馬歩きのおぼつかなさを、初学に例えて「いろはにほへと」。二つ目は、文字通りに「いろはにほへと」と一緒に習った仲間たちとの同世代意識。三番目は、成人したあかつきを示す「色は匂えど」である。それらが、いまはすべて「ちりぢりに」なってしまった。子供のころ、まだまだ遊んでいたいのに夕暮れが来て、竹馬遊びの仲間たちがそれぞれの家に「ちりぢりに」帰っていったように……。ここで「ちりぢりに」は、もちろん「ちりぬるを」を受けている。山本健吉は「意味よりも情緒に訴える句」と書いたが、その通りかもしれず、こんな具合に分解して読むよりも、なんとなくぼおっと受け止めておいたほうがよいような気もする。とにかく、なんだか懐かしさに浸される句だ。(清水哲男)」解説より。5025