BBTime 662 涼風

「この門を入れば涼風おのづから」森永湛堂

2024/07/29投稿
画像は朝の桜島です(7/28 5:58)。掲句は先日、和尚さんとの会話で知りました。「涼風:りょうふう」とは、涼しい風というより「涼しく感じる」の方が近い意味でしょう。詳しい解説はこちらを。

画像は霧島連山(7/28 5:58)。左手から「韓国岳:1700m」、わかりにくいのですが「新燃岳:1421m」、画像のほぼ中央が霊峰「高千穂峰:1574m」です。撮影場所(鹿児島市与次郎)からは桜島に向かって左から、韓国岳 新燃岳 高千穂峰 桜島 開門岳の五峰を見ることができます(この朝、開門岳は見えず)。さて、今回「涼風」をお届けします。この涼風は「音」で「明珍火箸風鈴」の奏でる音です。

「音」と文章は、オレンジページの拙ブログにて!
明珍さんのお話は「やってあたりまえ」を是非!
では皆様、ご自愛の程ご歯愛の程。

BBTime 661 耕不尽

「夏の夜や崩て明し冷し物」松尾芭蕉

2024/07/20投稿
「耕不尽:こうふじん」耕せども尽きず。句の解説から『清少納言は「夏は、夜」がよろしいと言った。「月のころはさらなり、闇もなほ、螢の多く飛びちがひたる」。違いないが、健全な風流心にとどまっている。そこへいくと、掲句の「夏の夜」はよろしいようなよろしくないような、とにかく健全さは読み取れない。「なつのよやくずれてあけしひやしもの」と読む。句会が宴会に転じ、ずるずると飲みかつ語るうちに、夜がしらじらと明け初めてきた。その光のなかで卓上を見やれば、昨夜のせっかくの冷えた酒肴も見苦しく崩れてしまっている。みんなの顔もとろんと大儀そうで、ああ適当に切り上げておけばよかったのにと、後悔の念にかられているのである。眼目は、実際に「崩て」いるのは「冷し物」なのだが、座全体が「崩て」しまっている雰囲気を、崩れた「冷し物」に象徴させているところだ。徹夜の酒席の常であり、江戸期も現代も同じことで、最後はこの狼藉ぶりに後悔しながらのお開きとなる。蛇足ながら、旅にあった芭蕉は別室ですぐに休めたろうが、朝のまぶしい光のなかを歩いて帰宅する人もいたはずで、そんな人は一句ひねるも何もなかっただろう。私はいま、若き日に徹夜で飲んだ果ての新宿の早暁の光を思い出している。(清水哲男)』(引用元)。今回は前回「BBTime 660 届けるものは」の続きのようなお話し。

梅雨明け朝の桜島。冒頭の短冊は開業した1990年に南洲寺(鹿児島市)の当時の御住職矢野完道(やのかんどう)和尚の筆で、「あなたの仕事でもそれ以外でも、これで終わり(ゴール)ということはない」との言葉とともに頂きました。前回「届けるものは」をアップした後、この「耕不尽」が頭の中を回ってます。

訪問診療に従事するようになって「認知症」について勉強する機会が増えました。認知症にならないためにはどうすれば良いのか?認知症になるタイミングを極力遅くするにはいかにするか?認知症予防に有効なひとつは「生活を耕不尽」です。

鶴丸城跡御楼門前の蓮。冒頭の句を見てください、漢字とひらがなが交互です。読んでも見てもリズムを感じます。超有名句「菜の花や月は東に日は西に 与謝蕪村」も同じスタイル。見方を変えるだけでも「耕不尽」。訪問先で利用者の方を見て思います。まず第一に「自分の足で歩くこと」次に「口から食べること」・・この二つを死守してほしいと痛感します。逆の見方をすれば・・「しっかり歩く」「歯と口の健康を守る」。多くの方は充分でないのでは?ちょっとそこまででも車、ファストフードジャンクフード炭酸飲料等々を日々口にする。極端な言い方ですが、人並み(半数以上の人がやっていること)の生活をしていたら、認知症リスクは高まります。

7/20朝の桜島。今、盛んに「AI」関連の記事や動画を目にします。ネットが普及し始めた時以上の変革が始まっていると言われます。「AI」をいかに使うかが「人」として問われます。茶道で「一生稽古」という言葉をよく聞きます。「一生稽古」「生涯現役」「耕不尽」、人生百年を生ききる秘訣は、好奇心を失わず、日々キョロキョロし、歩き回って、美味しく食べることのような気がします。最後にひとつ「耕不尽」は字の通りまずは「耕す」です。耕さないと「不尽」はありません。では皆様、ご自愛の程ご歯愛の程。

BBTime 660 届けるものは

「今生の今が倖せ衣被」鈴木真砂女

2024/07/13投稿
掲句の読みは「こんじょうの今が倖せきぬかつぎ」秋の句です御容赦を。画像は奈良は萬御菓子誂處「樫舎:かしや」にて。さて昨年春から訪問診療がメインになり丸一年経つ中で、大きく変わったことがあります。訪問診療なので、ご自宅や施設にこちら(歯科医師・歯科衛生士)が出向きます。いわば「何か」を届けるのです。訪問歯科ですので想像に難くないと思いますが「歯科治療」を届けます。義歯の修理・調整ときに新製、ムシ歯の治療、歯周病の治療、抜歯などの外科処置など。

(奈良フロレスタのドーナツ)
受ける依頼には「歯は無い、義歯も使えない」「咀嚼(モグモグ)はできても嚥下(ゴックン)ができない」などそれぞれの困り事があります。認知症状がある方もいらっしゃいます。次第に、歯科医師が提供すべきは「歯の治療、義歯の修理」というより、いかに「食べる」を治すか、「食べる」をアシストできるか!だと思い始めました。歯や義歯はあくまでも食べるための道具であって、その方が嚥下する嚥下できることが、より重要であり必要なのです。「食べるを治す」は訪問のみならず外来においても同じだと(遅まきながら)痛感しております。

(銀座空也のもなか)
そうするうちに、さらに新たな気づきが・・・具体例でお話しします。まず始めたことが昨年秋から「BGM」の導入、詳しくは「BBTime 638 Music for 介護」をどうぞ。よく音楽や歌は時間や国を超えると聞きますが、訪問の現場でもその通りです。百歳に近い方を青春時代に戻したり、コミニュケーションの取れない方の表情を温和にしたり。先日は二十歳未満の方の部屋へ出向きました。初対面の挨拶後、リクエストを聞くと「キョトン」。女性スタッフが説明すると緊張した面持ちながら「なにわ男子」との答え。早速スマホで流すと、途端に笑みがこぼれました。ある日のこと、このBGM導入のきっかけとなった元バスガイドさんのお宅で演歌ではなくいつもと違う音楽が流れていました。ご主人曰く「二階の棚にあったCDをかけています。同じものだと(奥様から)「飽きた」と言われたので」。そこで「小生の聴かなくなったCDを今度持ってきますね」。次回、処分を考えていたCDを数枚持参したところ、ご主人「いやあ、覚えてくださっていたのですね」と感激。ハッと思いました「ご自宅というより、この部屋だけがこのベッドだけが奥様の世界」。通常とは異なる世界観。CD数枚でこんなに喜んでくださるとは!今回持参した中の一押しは「前川清」でした。

(太宰府梅園の宝満山など)
ある方は百歳を超えていらっしゃいます。何気ない会話の中で、小生が早朝ポタリングで撮影した蓮で盛り上がりました。昔、そこにあった女学校に通っておられて、その時の蓮を今でも鮮明に覚えていらっしゃるとのこと。数日後、たまたま文具店で見つけた蓮の版画絵葉書、早速購入し次回持参したところ大喜び。そこで一案、毎回「蓮」の写真などを持っていきます!

(鶴丸城跡御楼門の蓮)
午前の訪問は大方お昼前までお邪魔します。ある施設は食堂のすぐ横が厨房で、いつもいつも美味しそうな匂いが流れてきます。小生も引き寄せられて調理担当の方と言葉を交わすようになりました。その方曰く「その日届いた材料と睨めっこしてメニューを決めます」。これを聞いて一案!BBTime 655 シンブログでご案内の通り雑誌オレンジページのネット版にブログを書くようになって、手元に毎号送られてきます。このバックナンバーを調理担当の方に差し上げることにしました。

「歯を治す」から「食べるを治す」さらに「今の倖せ」の素材を届ける。この「倖せ素材」は人それぞれです。またその方ご自身が「私の素材はコレです!」とリクエストされる訳ではありません。訪問診療や会話の中でこちら(歯科医師)が見つける・探すしかないと思います。先月のこと、我々訪問後翌週に亡くなられた方の報を受けました。驚くとともに、最後の晩餐とは言えなくとも最後の食事の前に口腔内をきれいにしてあげることができたのではないかと、合掌しました。まだまだやるべき事はあります、探すべきものがあります、精進いたします。皆様、ご自愛の程ご歯愛の程。