BBTime 660 届けるものは

「今生の今が倖せ衣被」鈴木真砂女

2024/07/13投稿
掲句の読みは「こんじょうの今が倖せきぬかつぎ」秋の句です御容赦を。画像は奈良は萬御菓子誂處「樫舎:かしや」にて。さて昨年春から訪問診療がメインになり丸一年経つ中で、大きく変わったことがあります。訪問診療なので、ご自宅や施設にこちら(歯科医師・歯科衛生士)が出向きます。いわば「何か」を届けるのです。訪問歯科ですので想像に難くないと思いますが「歯科治療」を届けます。義歯の修理・調整ときに新製、ムシ歯の治療、歯周病の治療、抜歯などの外科処置など。

(奈良フロレスタのドーナツ)
受ける依頼には「歯は無い、義歯も使えない」「咀嚼(モグモグ)はできても嚥下(ゴックン)ができない」などそれぞれの困り事があります。認知症状がある方もいらっしゃいます。次第に、歯科医師が提供すべきは「歯の治療、義歯の修理」というより、いかに「食べる」を治すか、「食べる」をアシストできるか!だと思い始めました。歯や義歯はあくまでも食べるための道具であって、その方が嚥下する嚥下できることが、より重要であり必要なのです。「食べるを治す」は訪問のみならず外来においても同じだと(遅まきながら)痛感しております。

(銀座空也のもなか)
そうするうちに、さらに新たな気づきが・・・具体例でお話しします。まず始めたことが昨年秋から「BGM」の導入、詳しくは「BBTime 638 Music for 介護」をどうぞ。よく音楽や歌は時間や国を超えると聞きますが、訪問の現場でもその通りです。百歳に近い方を青春時代に戻したり、コミニュケーションの取れない方の表情を温和にしたり。先日は二十歳未満の方の部屋へ出向きました。初対面の挨拶後、リクエストを聞くと「キョトン」。女性スタッフが説明すると緊張した面持ちながら「なにわ男子」との答え。早速スマホで流すと、途端に笑みがこぼれました。ある日のこと、このBGM導入のきっかけとなった元バスガイドさんのお宅で演歌ではなくいつもと違う音楽が流れていました。ご主人曰く「二階の棚にあったCDをかけています。同じものだと(奥様から)「飽きた」と言われたので」。そこで「小生の聴かなくなったCDを今度持ってきますね」。次回、処分を考えていたCDを数枚持参したところ、ご主人「いやあ、覚えてくださっていたのですね」と感激。ハッと思いました「ご自宅というより、この部屋だけがこのベッドだけが奥様の世界」。通常とは異なる世界観。CD数枚でこんなに喜んでくださるとは!今回持参した中の一押しは「前川清」でした。

(太宰府梅園の宝満山など)
ある方は百歳を超えていらっしゃいます。何気ない会話の中で、小生が早朝ポタリングで撮影した蓮で盛り上がりました。昔、そこにあった女学校に通っておられて、その時の蓮を今でも鮮明に覚えていらっしゃるとのこと。数日後、たまたま文具店で見つけた蓮の版画絵葉書、早速購入し次回持参したところ大喜び。そこで一案、毎回「蓮」の写真などを持っていきます!

(鶴丸城跡御楼門の蓮)
午前の訪問は大方お昼前までお邪魔します。ある施設は食堂のすぐ横が厨房で、いつもいつも美味しそうな匂いが流れてきます。小生も引き寄せられて調理担当の方と言葉を交わすようになりました。その方曰く「その日届いた材料と睨めっこしてメニューを決めます」。これを聞いて一案!BBTime 655 シンブログでご案内の通り雑誌オレンジページのネット版にブログを書くようになって、手元に毎号送られてきます。このバックナンバーを調理担当の方に差し上げることにしました。

「歯を治す」から「食べるを治す」さらに「今の倖せ」の素材を届ける。この「倖せ素材」は人それぞれです。またその方ご自身が「私の素材はコレです!」とリクエストされる訳ではありません。訪問診療や会話の中でこちら(歯科医師)が見つける・探すしかないと思います。先月のこと、我々訪問後翌週に亡くなられた方の報を受けました。驚くとともに、最後の晩餐とは言えなくとも最後の食事の前に口腔内をきれいにしてあげることができたのではないかと、合掌しました。まだまだやるべき事はあります、探すべきものがあります、精進いたします。皆様、ご自愛の程ご歯愛の程。

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