「母の日のてのひらの味塩むすび」鷹羽狩行

2025/05/11母の日投稿
櫂 未知子著「食の一句」に『海苔も巻かず、米と塩だけを供する塩むすびはまさしく家庭の味。かつての母達は、おなかをすかせた子供達のためにさっとおむすびを作ってくれた。贅沢とは無縁だった古き日本の母親達は、その<てのひら>から素朴な、しかし間違いなく美味しいものを生み出してくれた。子が母を信頼するのは、理屈ではない。空腹を満たしてくれたかどうか、である』(82頁より引用)。今回は「abc」の「B」。abcとは歩く(a)、口から食べる(b:バイト)、きれいにする(c:クリーニング)。「B」bite=噛む(口から食べる)について。

東京三田「コート・ドール」赤ピーマンのムース。昨年夏食事した際、斉須政雄シェフに「記憶の中の美味しいものは?」とお尋ねしたところ、即答「母のおむすび」でした。昔、シェフにインタビューしております。是非お読みください「「La Cuisine,C’est toute ma Vie.」-料理、これこそ、わが全人生」。

「国産牛の尾の煮込み・ワイン・ソース」
訪問診療でいろいろな施設に行きます。時間がお昼前だとちょうどお昼ご飯の用意の最中。利用者の方の「食べる」の状態に合わせて食事の形状も色々です。普通食、きざみ食、ミキサー食等々。ある時、ミキサー食に発見がありました。ミキサー(ブレンダー)処理してありますので、料理の色はぼやけています。一番の驚きは「臭い・香り」です。普通食であればテーブル脇に立った姿勢でサラダなら野菜の匂い香りがします。ミキサー食はその皿に顔を近づけて鼻でクンクンしてやっとカボチャだな、とわかるのです。

口の状態:歯があっても噛む力が弱い、義歯を持っていても使えないなど理由は様々でミキサー食選択となるですが・・。歩く同様「口から食べる」を死守してください。口から食べる、歯で噛んで食べることで味わえるのです。噛んで食べることで脳にもプラスがあります。噛むごとに脳に血液を送り込んでいるのです。ひと噛み毎に約3.5ccの血液が脳に供給されます。魚の形の醤油入れの量です。詳しくは「カムカムポンプ」を。

「B」の死守して欲しいもうひとつは「声を出す」です。おしゃべりでも歌うでもOKです、ともかく声を出してください。声を出さなくなると次第に声が出なくなります。声が出なくなる、すなわち声帯が弱くなると「咳払い」ができなくなるのです。すると誤嚥性肺炎リスクが高まります。施設のスタッフの方には「おはようと声をかけた際に、必ず利用者の方からも、声でおはようと返してもらってください」とお願いします。「おはよう・おはようございます」の声に、ただ頷くのではダメです、「おはよう」の声が出るまでしつこく声をかけてください。声帯については「セイタイハイリョ」をご参考に。

ふと思い出しました。その昔、小学生の頃下校時に近所の家から「お経」が聞こえて来ました。おそらくお年寄りの読経でした。この読経(どきょう)、昔の人の知恵だと思います。それなりに大きな声を日に数回数分間出す、しかも毎日・・これは明らかに声帯筋肉のトレーニングです。今回はabcの「B:口から食べる・声を出す」。人生を生ききる秘訣のひとつです。皆様、ご自愛の程ご歯愛の程