BBTime 329 合格率低下
「万緑の中や吾子の歯生えそむる」中村草田男
石榴(ザクロ)の花です。季語「万緑」は紅一点の出処でもある「万緑叢中紅一点:ばんりょくそうちゅうこういってん」から生まれたようです。解説より『「万緑」という季語の創始者は他ならぬ草田男その人だからである。「万緑」の項目を立てる以上、この句を逸するわけにはいかないのだ。草田男自身は、ヒントを王安石の詩「万緑叢中紅一点」から得たのだという。見渡すかぎりの緑のなかで、赤ん坊に生えてきたちっちゃな白い歯がまぶしいという構図。人生の希望に満ちた親心。この親心のほうが、読者には微笑ましくもまぶしく感じられるところだ。私は読んでいないが、この句のモデルになったお嬢さんが、最近、家庭人としての草田男像を書いた本を上梓され評判になっている。もうひとつの草田男の名句になぞらえていうならば、だんだん「昭和も遠くなり」つつあるということか』。面白いですね!
面白いのは、生えそむる(初めて生えた)歯は白、紅一点はまさしく紅。草田男氏の頭の中では「紅白」・・赤ん坊の紅き唇と白い歯でしょうか。紅一点は「萬緑叢中紅一点 動人春色不須多」で『【読み下し】万緑叢中紅一点(ばんりょくそうちゅうこういってん) 人を動かす春色(しゅんしょく)、すべからず多かるべからず【釈】緑に重なる緑いっぱいの野の中に、ぽつんと真紅のザクロの花が浮かんでくっきりとあでやかである。(その美しいったらない!)人を感動させる美しさは数をたのむべきではない(キラリと輝くものあってこそだ)。【鑑賞】紅一点は男性のなかの女性一人という形容に用いられてきたが、むしろ対比の美しさを謳っていると思う。緑のあふれる美しさは、ただ一つの真紅によって逆転する。緑はもはや紅の引き立て役となって遠景に退く。緑は集合の美、紅は唯一の美といってもいい。緑が多数を頼んでも少数の紅に圧倒される、美が力に(文が質に)勝るのである』とのこと(出典こちら)。ちなみに解説の「昭和も遠くなり」は名句「降る雪や明治は遠くなりにけり」です。
さて今回の「合格率低下」は歯科医師国家試験についてのお話。ここ数年低いことは知っていましたが、遂に記事として載るほどになりました(4/9 文春オンライン)。タイトル『3人に1人が不合格 「歯科医師国家試験」が医師国家試験よりも“狭き門”になった事情』記事はこちら。以下記事より『先日、第112回「歯科医師国家試験」の結果が発表されました。同日に発表された医師国家試験の全体の合格率は89.0%と約9割。この割合は毎年変わりません。では、歯科医師国家試験の合格率はどれくらいでしょう。なんと63.7%。10人受けると3~4人落ちるという厳しさでした。なぜ、医師の国家試験に比べ、歯科医師の国家試験はこんなにも厳しいのでしょうか。それは、歯医者さんが「多すぎる」とされているからです。』記事はこちら。合格率も「昭和も遠くなり」でしょうか。
当時、小生の母校九州歯科大は毎年97,98%の合格率で、約130名受験して不合格者3名程度でした。入学後六年間「それなりに」勉強すれば歯科医師になれる時代でした。今でも国家試験発表シーンを鮮明に覚えています。関東に就職だったため、休みをいただいて厚生省(霞ヶ関)に見に行きました。係りの方が厚さ5,6センチの電話帳のような合格者名簿(記載は番号のみ)を三冊、台にくくりつけて閲覧開始。列を作って待ち、番が来ると名簿をめくるのももどかしく、試験会場を選び・・番号を指でなぞると・・自分の番号がズームして目に飛び込んできました。遠くから「ない!ない!」の声・・列から離れてロビーを見渡すと頭を抱えてしゃがみこむ人も・・。
落ちた数人の同級生も翌年には全員無事合格しました。それから次第に合格率が低下する中で「医科(医者)は絶対評価だけど、歯科は相対評価だよね」との声を聞くように・・。すなわち「医科は何点以上取っていれば合格」だけど「歯科は上から何人で切られる」ということです(真偽のほどは不明)。当時毎年三千人の合格者でしたが、今では二千人。現役で落ちた学生は浪人して翌年再受験しますから、国家試験受験希望者は増える一方なんです。
画像はザクロの実。歯科医師国家試験の受験資格のひとつに「歯科大を卒業か卒業見込みであること」があります。各大学(特に私立)はこの成績では国家試験合格は到底無理だから卒業させない、受験資格を与えない、つまり受験資格を得られない学生がかなり増えているとも聞きます。よって今の約60数パーセントよりもかなり低いのが事実だと思われます。こちらのサイト「(続)とある最底辺歯科医の戯れ言集」にかなり詳しく解説してあります、興味ある方はこちらもどうぞ。
文春記事は『歯科医療業界がこんな状態に陥ってしまったのは、文部科学省と厚生労働省の怠慢・無策と、既得権益にしがみつく大学関係者の責任が大きいのではないでしょうか。「虫歯の洪水」ではなくなったかもしれませんが、虐待のために虫歯だらけになってしまった子どもや、入れ歯が合わず困っているお年寄りはたくさんいます。歯の残っている数(残存歯数)が多いほど認知症の発症率が低く、要介護になりにくく、健康寿命も延びるという研究結果もあります。歯医者さんが多すぎるからといって、歯医者さんの重要性が減ったわけではないのです。人びとの口の健康を守るためにも、歯学部が置かれている現状を、このまま放置してはいけないのではないでしょうか。』と結んでいます。
万緑に似た意味の言葉に「満目青山」があります。禅語「心外無法 満目青山:しんげむほう まんもくせいざん」詳しくはこちら。「青山:せいざん」のひとつの意味は「墓地」です。学生の頃、薬理学授業で教授が「歯科は読みようによっては「はか(墓)」だ!将来なくなるや知れず」とおっしゃいました。少なからず当たっていたかもしれません。昔、歯科医師の会議でムシ歯予防の必要性を声高に言うと「ムシ歯がなくなったら仕事がなくなる」と本気で反論する先輩がいたのも事実です。あくまでも小生の意見ですが、国家試験合格率の低下原因のひとつは歯科医師の提供する医療でしょう。今尚、歯科医師が後手後手治療に軸足を置いているのでは人々の支持は得られないと思います。保険診療制度や過去の慣習など他にも原因はあるのでしょうが、後手後手医療を先手先手予防に切り替えないと今以上に合格率は低下し、歯科医師は自分で己の首を絞めることになるでしょう。自己反省を含めて切に思います。8700
ブログへのコメントありがとうございます。
私は佐賀市の出身ですので、北九州におけるDentistは大変だなぁと思ったことがあります。
それにしても、万緑を顧みるべし山毛欅峠
からの連想の飛躍は恐るべきもの。たいへんなartistic talentdですね。
井手敏博