BBTime 542 ご歯愛の程
「いちまいの皮の包める熟柿かな」野見山朱鳥
この時節、好きな句です。解説には『掌に重い熟した柿。極上のものは、まさにこの句のとおり、一枚の薄い皮に包まれている。桃の皮をむくよりも、はるかに難しい。カラスと競い合うようにして、柿の熟れるのを待っていた我ら山の子どもは、みんな形を崩さずに見事にむいて食べたものだった。山の幸の濃密な甘味。もう二度と、あのころのような完璧な熟柿を手に取ることはないだろう。往時茫茫なり。なお、この句には、同時にかすかなエロスの興趣もある。『曼珠沙華』所収』(解説より)。先日スーパーの「おつとめ品コーナー」に熟柿を見つけ即購入。この歳になって熟柿の無駄のない、手を汚さない食べ方を発見しました(笑)。注意深く水洗いして、そのまま(皮を剥かずに)しゃぶりつく!今回はご自愛ならぬ「ご歯愛」について。
吹く風が冷たくなるこの季節、患者さんの主訴(しゅそ:主な困り事)でよく耳にするのが「しみる」です。冷たいものを口に含むとしみる、風が当たるとしみる、歯を磨くとしみる等々。「しみる」と聞いてまず思うのが・・「当たり前ですよ、歯は生きてますから」・・もちろん言いはしませんが。ご存じとは思いますが、歯は生きています。人体の中でもっとも硬い部分ですが、血が通い神経も通っています。ゆえに「しみる」を感じるのです。
日頃「歯は生きている」「血が通い神経が通っている」をさほど感じずに生活しておられると思いますが、歯は生きています。歯のみならず、歯を支える顎の骨や骨を覆う歯茎(歯肉)ももちろん生きています。あなたの歯にもっと愛を!「ご歯愛(じあい)の程」の意味するところです。
もちろん日常生活に支障が出るほど「しみる」場合は治療します。軽度なら「しみ止め」でコーティングしますが、日々の歯磨きによってコーティングは剥がれ再発します。楔状欠損や重度の「しみる」場合は、ムシ歯治療と同じように表面を削って詰める処置をします。ヒトの体は10万年前とほぼ変わっていないそうです。10万年前のヒトが氷水を日頃、口にしたでしょうか?過度な温度の食べ物・飲み物、過度な味付けの料理、砂糖のふんだんに入った食べ物を口にしたでしょうか?ヒトの体は狩猟採集で食物を得ていた頃とほぼ同じです。歯も生き物、いたわってやってください。皆さま、ご自愛の程ご歯愛の程。4080