BBTime 571 魔法ではない

「春昼や魔法の利かぬ魔法瓶」安住 敦

2022/4/26投稿
昔のことです(開業したての頃)。知り合いの方が「噛むと痛い」と来院。レントゲンみると歯周病が進行しており、着手するなら「抜歯です」と伝えると「悪い歯を抜くのではなく治すのが医療でしょ」とその方。んー「治療は魔法ではないので無理なものは無理です」と思いながらも「では、投薬しますので様子見ましょう」というのがやっとでした。句の解説は『真空状態を作って保温するという論理的な英語「vaccum bottle」に対し、何時間でもお湯が冷めない現象に着目し、日本では「魔法瓶」と命名された。どんなものにもよく書けるマジックインキ、愛犬に付いた草の実(おなもみ)がヒントとなったマジックテープなども、従来にない不思議な力を強調した「魔法/マジック」の用法だが、「魔法瓶」はなかでも突出して絶妙なネーミングである。他にも、来週に控える「黄金週間」やめくるめく「万華鏡」なども腕の立つ日本語職人の手になるものと思われる。掲句は、茶の間に鎮座するポットの仰々しいネーミングにくすりと笑う大人の視線だが、いかにもうららかな春の昼であることが、笑いを冷笑から、ユニークな名称の背景にある人間の体温を感じさせている』(解説より抜粋)。今回は目についた記事のご紹介。

その記事とは「入れ歯に認知症、誤嚥性肺炎…。知りたくなかった真実。日本は歯医者さんの「超後進国」だった」と少々ドキッとするタイトル。記事の中身は・・『残念ながら、現在の日本はれっきとした『歯科医療後進国』です。80歳時点で何本歯が残っているかを調査した国際的なデータがあります。スウェーデンは20本。アメリカは17本。イギリスが15本。そして日本は、わずか8本です。諸外国と比べて惨憺な状況と言わざるを得ません。男女の平均寿命では全世界トップクラスでありながら、歯はズタボロの状況。逆に言えば、この数字を上げれば、平均寿命や健康寿命もさらに上げられるのです』(抜粋)。

記事は続きます・・『日本人は、デンタルケアに関する意識関心が低すぎる。80歳の残歯率はその表れですが、ある雑誌が行なった60歳以上のビジネスマンに対するアンケートで、興味深いものがありました。「40代のうちにメンテナンスしておくべきだった体の部位」の第一位が「歯」だったんです。多くの方が歯を失って、初めてその大切さを痛感している。しかし、一度失った永久歯は、文字通り永久に生えてはこないんです。当たり前に思われているこのことを、いま一度考え直していただきたいと思っています』(記事より)。低すぎる・・低くなってしまったのです。単純に比較はできませんが、800年前のお坊さんは今以上に歯を磨いています。しかも砂糖がほとんど日常にない頃です。今でも、お寺や神社の「手水場:ちょうずば」で手や口を清めますよね。決して低かったのではないのです、低くなってしまったのです。詳しくはBBTime561「正法眼蔵」へ。

低くなってしまった理由は・・『そして皮肉なことに、日本のデンタルヘルスが著しく低いのは、世界に誇る国民皆保険制度が影響していると私は考えています。日本全国、どこへ行っても1割から3割の自己負担で「平等の医療」が受けられる。このシステムの功罪で、日本人の治療の内容が「及第点ギリギリ」となり、患者さんからも「予防医療」という概念を奪っているのです』・・この意見には賛成です。保険診療は今でも原則「疾病保険:しっぺい」です。病気でなければ保険証は使えません。そんなことはないでしょ!定期的に歯医者で保険内メンテナンスを受けてますけど・・。今度聞いてみてください。必ずや病名がついていて、その病名に必要な処置(治療)を受けていらっしゃるのです。

保険制度は歯科以外の病気には極めて良い制度でしょう。なぜなら殆どの病気において確実な予防方法は未だ確立されていません。しかし「歯科」は異なります、予防可能です。にもかかわらず、歯科医療も他の一般医科同様の保険制度であるために「歯科治療の悲劇」が起こり、その多くは連鎖してゆくのです。悲しいことです。最後に声を大にして言います!「歯は磨いても、もらうもの」これによって確実な予防が可能です。保険証は後手後手医療しかカバーしません。先手先手予防を是非あなたの意思で!セラミックの歯であろうとインプランであろうと所詮「偽物」に過ぎません。生まれ持ったあなたの歯をご自愛の程。皆さま、ご歯愛の程。

BBTime 570 吾子の歯

「万緑の中や吾子の歯生えそむる」中村草田男

2022/4/19投稿 4/22当ブログ誕生日(1999/4/22開始)本日アースデイ
4/18の朝、ラジオから流れてきた歌に愕然としました。まずは句の解説『どんな歳時記にも載っている句だ。それもそのはずで、「万緑」という季語の創始者は他ならぬ草田男その人だからである。「万緑」の項目を立てる以上、この句を逸するわけにはいかないのだ。草田男自身は、ヒントを王安石の詩「万緑叢中紅一点」から得たのだという。見渡すかぎりの緑のなかで、赤ん坊に生えてきたちっちゃな白い歯がまぶしいという構図。人生の希望に満ちた親心。この親心のほうが、読者には微笑ましくもまぶしく感じられるところだ。私は読んでいないが、この句のモデルになったお嬢さんが、最近、家庭人としての草田男像を書いた本を上梓され評判になっている』(解説より抜粋)。我が子(吾子:あこ)の成長を礼賛し喜ぶ掲句に対して、今回はあまりにも「らんぼう」な歌について。

数字の語呂合わせで、4/18を「良い歯の日」として日本歯科医師会が1993年(平成5年)に制定したとのこと。その朝に聞こえてきた歌は・・「虫歯のこどもの誕生日」。作詞作曲みなみらんぼう、2010/5/12発売。歌詞を聞いて驚き悲しくなりました。その歌詞は・・

2023/06/05 JASRAC指摘により削除・・歌詞はこちら

揚げ足取りです・・まず「虫歯」この表記は誤りです。ムシ歯:う蝕歯とは蝕まれた(むしばまれた)歯の意味です。虫の歯ではありません。「甘いお茶」ケーキに合わないし、わざわざ「甘い」をつける必要もないでしょ。「あしたになったら」治りません!治療受けないと治りません。「虫歯の虫」細菌は居ますが見えません。あまりにも子供騙し!らんぼうです。

歌詞削除・・JASRAC指摘により

「悪いことなどしていない」これは正しい。悪いのは周りの大人です。歌詞の内容から就学前児童と思われます。周りの大人に責任有りです。「前歯がないよ」これまたひどい!おそらく上の前歯(BAAB)のことでしょう。昔は「みそっぱ」(カリエスでおそらく味噌のような色の歯)とか「哺乳瓶カリエス」などの言葉も聞きましたが、上顎前歯(じょうがくぜんし)がなくなる状態は、かなりひどいです。もちろん奥歯もカリエスでしょう。「残りの虫歯」案の定、前歯のみならず奥歯もムシ歯、ひどい状態です。

歌詞削除・・2023/06/05

まず理解して欲しい(気付いて欲しい)のは、我が子の病気を歌にして歌うのか?しかもNHK「みんなのうた」で流れていたようです。「こどものムシ歯ごときで・・」との考えは間違っています。ムシ歯は病気で、しかも不治の病です。歯は使い捨てではありません。乳歯であってもかけがえのない歯です。この歌を幼稚園や小学校でみんなそろって聞いたり歌ったりしていたなら、ゾッとします。まさに掲句とは対照的です。

句の解説にも出てきますが「万緑:ばんりょく」は万緑叢中(そうちゅう)紅一点から生み出された季語です。この紅一点の「紅」とは柘榴の花とのこと(上の画像)。中村草田男の描く親心、かたやみなみらんぼうの歌の親子像、あなたならどちらを選びますか?皆さま、ご自愛の程ご歯愛の程。

BBTime 569 パラジウム

「総金歯の美少女のごとき春夕焼」高山れおな

2022/4/17投稿
日々報道に接するたび、鬱々となります。句の解説には『季語は「春夕焼」。単に夕焼といえば、盛んに見られる夏の季語だ。夕焼は四季を問わずに出現するが、春の夕焼は柔らかな感じがするので、他の季節のそれとは区別してきた。で、この一般的なイメージに逆らっているのが、掲句。「よく見てご覧。そんなにうっとりと見つめられるような現象でもないよ」と、言っている。例えれば色白の「美少女」の柔らかい頬が少しゆるんで、にいっと「総金歯」が剥き出しになっているようじゃないか。そんな不気味なまがまがしさを含んだものとして、作者には見えている。』(解説より抜粋)。今回は歯科治療で使用する金属「パラジウム」について。

近頃、歯科用金属であるパラジウムに関する報道を続けて目にしました。
まずはこの記事「辻二郎氏死去 パラジウム触媒研究の先駆者」です。『希少金属のパラジウムを触媒に用い、炭素同士の結合を実現できることを世界で初めて見いだした。2010年のノーベル化学賞を受賞した鈴木章・北海道大名誉教授(91)らが開発した「クロスカップリング反応」の礎となった』(記事より抜粋)。パラジウムが車の排ガス浄化装置に触媒として使用されるために近年、パラジウム価格が高騰して来ています。加えて今回のウクライナ戦争により高騰に拍車がかかりました。

パラジウム高騰は保険診療価格にも影響が出ています。記事「銀歯治療が値上げ、ロシア産の金属「パラジウム」高騰で…1歯で180円程度」。記事によると『厚生労働省は13日、歯科の銀歯治療で用いる金属「パラジウム合金」について、5月に公定価格を約8%引き上げることを決めた。患者の窓口負担も増え、3割負担の場合、奥歯に詰め物を入れる治療では1歯あたり180円程度の負担増が想定される。ロシアのウクライナ侵攻に伴う価格高騰を受けた緊急措置として、同日開かれた厚労相の諮問機関・中央社会保険医療協議会で了承された。』(記事より抜粋)。約一年前にも「BBTime518 記事ふたつ」にも書いております、ご参照のほど。

さて、遡ること八年ほど前に白い冠(被せ物:クラウン)が条件付きで保険適用となりました。CAD/CAM冠(キャドキャムかん)と呼ばれるものです。昨年九月より適用部位が拡大され、条件を満たせば一番前の前歯から六番目の奥歯まで可能です。今月四月からは歯の一部分を詰めるインレーも条件付きですがCAD/CAMインレーが保険適用となりました。パラジウムの今や天井無しの価格高騰の影響(お陰)でしょう。ちなみにパラジウム合金インレーのセット時負担金は歯一本おおよそ3000円弱で、CAD/CAMインレーなら約3500円となり、500円程度の差があります。材料費はパラジウムインレーの方が高いのですが、CAD/CAMインレーは技術料(いわば歯科医の技術費)が高いために、CAD/CAMインレーの方が高くなってしまいます。この技術料の差を裏読みすると・・従来のインレー(メタル・レジン)よりも高度な技術を必要とするということです。お分かりですね・・銀色のインレーを白くしたい時には上手な歯科医を選びましょう(けど、どうやって選ぶの?)。CAD/CAM=Cumputer aided design / Computer aided manufacture

今回は車の排ガス規制とウクライナ戦争によって、レアメタルであるパラジウムの価格が高騰していること。その影響でCAD/CAMインレー(樹脂の白いインレー)が保険導入されたこと。そのインレーにはより高度な技術が必要であること。これら大きく三点についての話でした。皆さま、ご自愛の程ご歯愛の程。5590

BBTime 568 祈る

「目をつむれば何もかもある春の暮」藺草慶子

2022/4/8投稿 4/8追加
日々「春なのに・・」と言いたくなります。春愁(しゅんしゅう)ではなくウクライナ戦争への怒りと憂いです。句の解説には『登場するのは、もう記憶の中でしか会えないたくさんの人々や、既に無くなってしまった昔家族で住んでいた家などなど。なにもかも今は存在していないが、少し目を閉じるときっと鮮やかに思い出されるのだ。それは、ただ懐かしい思い出とかありありとよみがえる記憶というよりまさに、何もかもある、であり生きて来た現実なのだろう。春の夕日を遠く見ながらそんなことを思った』(解説より抜粋)。祈るしかないです。4/4のほぼ日「今日のダーリン」より。

『・週末は人に会わないでメディアにばかり接していたので、
 戦争の情報を入力しすぎて、ちょっと鬱になる。

 まさか、戦争映画でしか見たことのないような場面を、
 ライブに近い映像で見ることになるとは思わなかった。
 おおげさな言い方かもしれないけれど、2022年に、
 人類がはじめて経験していることではないだろうか。
 過去の記録映像としてでなく、戦争の映像を見ること。
 非日常的な被害や苦しみの報告を刻々と知っていくこと。
 はるか遠くにあると思っていた地域が、
 ほんとうに、「いま・ここ」とつながっていて、
 そこで攻撃という名の殺人や破壊が行われていること。
 人間の思惑や戦略によって、その戦争が動いていること。
 限られた質と量の「大本営」発表だけで知るのでなく、
 重要な機関からの報告やら推察、そして偽情報までが、
 ひっきりなしにテレビやらSNSやらで入ってくる。
 もしかしたら、日本にいるぼくらは、
 ロシアにいる兵士たちよりも、ウクライナの市民よりも、
 受け取っている「情報量」だけは多いのかもしれない。』

『この情報の大きな渦に巻き込まれると、
 こころの動きが取れなくなったりもする。
 たくさんの人の命や、人生がかかっていることだけに、
 距離が8193キロメートル離れていても、
 感情が共振してしまうのだ。
 なによりも、刺激的な情報につい注目してしまうのは、
 人間の生存本能のせいもあるのだろうとは思う。』

『そんなときどうするかについて、
 国際政治学者(平和構築)の篠田英朗氏が書いていた。
 「私の場合、音楽を聴いてコーヒーを飲み、
 日常性を自分に感じさせながら、
 自分ができることを考えます。」というツイートに、
 さらに追いツイートで「けっこう重要なのは、
 深く長い深呼吸を繰り返すこと。」とあった。
 現実の戦争と平和を考え続けてきた人の方法だ。』

『そして、そうだった、ぼくも方法を持っていたのだ。
 「黙祷」を儀式として持つことだった。
 それ以外の時間の「日常」をしっかり感じるためにも。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
別のことを書こうとしたけど、どうにも書けなかったので。』
(以上、4/4今日のダーリンより)

言葉、ありません 祈るのみ・・合掌

追加 曲を聴きながら、歌詞の意味を確認して涙しました、紹介します。このフレーズは2’16”(2分16秒)頃からです。歌詞や和訳の出典はこちら