BBTime 638 Music for 介護

「あたたかき十一月もすみにけり」中村草田男

2023/11/23投稿 11/29報告追加
 昨今の気温について、掲句の解説のようには受け止められない「今年」です。解説は『旧版の角川書店編『俳句歳時記』には、この句と並んで細見綾子の「峠見ゆ十一月のむなしさに」が載っている。長年親しんできた歳時記だから、毎年この時期になると、二つの句をセットで思いだすことになる。並んでいるのは偶然だが、いずれもが、十一月という中途半端で地味な月に見事な輪郭を与えていて、忘れられないのだ。忙中閑あり。……ならぬ、年の瀬をひかえて「忙前閑あり」といえば当たり前だが、両句ともそんな当たり前をすらりと表現していて、しかもよい味を出している。ただ草田男句の場合は、どちらかといえば玄人受けのする作品かもしれない。(清水哲男)』(引用元)。今回は介護と音楽について。

 歯科訪問診療で介護の現場に出向きます。訪問先で感ずること二点、明るさ(照明)と音。居宅(ご自宅)であっても施設であっても様々です。今回新たな試みを始めました。今までも可能な限り、ご家族や職員の方に一言断って、カーテンや窓を開けて外光を入れたり換気したりしていました。また、その場の「音」・・テレビ、ラジオ、BGMなどの音があることもあれば無音のこともあります。大雑把に言えば、戸やカーテンが閉まって(明るくなく)音がない部屋は、空気は重く暗く感じます。

介護を受けられるご本人が耳が遠い故の無音なのかも知れません。明るい空間(現場)もあります。明るい部屋にベッドがあり介護される方も明るい。あるお宅はご主人が奥様を介護されています、奥様は元バスガイドさん。いつも音楽が演歌、歌謡曲とエンドレスで流れてきます。小生がイントロ当てクイズよろしく「これは前川清」と言って間違っていると、奥様は寝たまま大笑い。ご主人と奥様のやりとりはまさに夫婦(めおと)漫才。かたや暗い空間もあります。光は届いていても「無音」、九十代半ばのお母さんを六十代半ばの息子さんがお世話していらっしゃる。介護鬱(うつ)を疑いたくなるくらい気落ちされていることも。帰りしな思いました「音楽をかけよう!」

簡単です、手元にスマホがあります。早速BGM作戦開始!はたと考えました「何をかけよう?」その時に浮かんだ曲がチャップリンの「Smile:スマイル」。早速spotifyで検索すると、様々な歌手がこの曲をカバーしているチャンネルがありました。狙いは「ご本人」「介護する人」「我々(歯科訪問診療)」へのBGMです、スマイルです。

効果の検証はこれからです。先日百歳過ぎ女性の口腔ケアでした。会話は成立しませんが、言う事は理解してくださいます。ケア終了後「今日はこれで終わりです、また来ますね」と大きめの声で言うと、感謝と喜びの気持ちが充分に伝わる目だけの笑顔で見送ってくださいました。「目は口ほどにものをいう」と言いますが、これほどまでに伝わるとはと驚くほどの「目だけ笑顔」でした。Music for 介護、試行錯誤していきます。皆様、ご自愛の程ご歯愛の程。

報告11/29 報告します。
1)ご家族、施設の方に「音楽をかけながらさせて頂きます」と言うと、皆さん「それは、良いですね」との反応でした。
2)コミニュケーションの取れない方には、こちらが勝手に選びます。取れる方には「どんな歌がお好きですか?」と聞きます。ある方は「演歌がいいです」・・早速流したところ、口腔ケアの合間合間に口ずさんでおられました、その曲は石川さゆりの「津軽海峡・冬景色」。
3)コミニュケーションの取れない女性。スタッフが「この方は天文館(繁華街)でお店をされていたそうです」・・この方にも演歌を流しました。おそらく耳に届いていたことでしょう。情報に病歴はありますが、音楽歴も加えて頂くと助かると思いました。
4)演歌、文部省唱歌、洋楽でおおかたカバーできるでしょう。
5)音楽はエンターテイメントに分類されることもあります。介護の現場に更にエンターテインメントを取り入れることを進めていきます。続き、また報告します。11/29

https://youtu.be/xuMKgVJQZkQ?si=7WI7tvrOwlGH87bs

BBTime 637 Tea for Teeth

「雪降ってコーヒー組と紅茶組」中原幸子

2023/11/18投稿
 鹿児島は突然冬になりました(寒)。福岡市では平年より1ヶ月も早く初雪の便りとか(記事はこちら)。まずは句の解説から『寒いと思ったら、この街ではめったにお目にかかれない雪が舞いはじめた。外の情景をさっと描写したところで視点は喫茶店の内側へと切り替る。どっと入ってきてようやく席に落ち着いた一行。注文をとりに来たウェイトレスを前に幹事役の人が「コーヒーの人」「紅茶の人」と賑やかに声をかけ、手を挙げてもらっている。たくさん人が集まればよく見かける光景であるが、いい大人が「はい、はい」と、素直に手を挙げる様子もどこか子供じみて可愛げがある。幹事のとっさの問いかけであったが、この時は他の注文もなく、きれいにコーヒー組と紅茶組に分かれたのだろう。そんな偶然をきっかけにちょっと堅かった座の雰囲気も自然にほぐれる。(中略)暖かな飲物もゆきわたり、ほっと落ち着いた気分で窓に眼をやれば雪はちらちらと降り続いている。白く細やかな雪が楽しげな室内の空気をいっそう引き立てるようである。幸子の句には都会で暮らす日常のなにげない出来事が季節を感受する喜びとともに生き生きと書きとめられている。それは今の暮しの原風景であるように思える。『以上、西陣から』(2006)所収』(引用元)。今回は「歯のためのお茶」について。

先日のこと。おやつ堂に来られたお客さんとの会話「始めは歯磨き粉付けずに唾液磨きしてます」いいですね!「最後にペーストを歯に塗るようして、うがいは無し」そうです!「手にハンドクリーム塗って、すぐさま洗う人はいませんもんね」はい、その通りです。「唾液磨きの時のつばは飲み込んでもいいんですよね?」はい、問題ないです。

この会話の後、ひとつのアイデアが浮かびました。お気に入りのハーブティを用意してください。唾液磨きの途中途中で、ハーブティでブクブクうがいゴックン。もちろん、お茶でも白湯(さゆ)でもOKです。唾液磨きとティーを用意することで、リビングでもテレビや動画見ながらでも歯磨きできます。これから更に寒くなる夜に、ひんやりした洗面で磨きよりも心地良く丁寧に歯磨きできます。くれぐれも砂糖はゼロにてお願いします。個人的なオススメはミント系なら冒頭画像「ミントマジック」、ほんのり甘いカルディ「シナモンティ」です。では皆様、ご自愛の程ご歯愛の程。

BBTime 636 くちびる

「物言へば唇寒し秋の風」松尾芭蕉

2023/11/10投稿 11/11画像追加 11/17リンク追加
 立冬(11/08)が過ぎたと言うのに日中は冬でもなく秋でもなく夏です。四季が二季(夏と冬)になる日も近いのでしょうか?句の解説は『あまりにも有名なので、作者の名前を知らなかったり、あるいは諺だと思っている人も少なくないだろう。有名は無名に通じる。こうした例は、他のジャンルでも枚挙にいとまがない。それはともかく、掲句は教育的道徳的に過ぎて昔から評判は芳しくないようだ。ご丁寧にも座右の銘として、こんな前書までついているからだろう。「人の短をいふ事なかれ 己が長をいふ事なかれ」。虚子も、苦々しげに言っている。「沈黙を守るに若かず、無用の言を吐くと駟(シ)も舌に及ばずで,忽ち不測の害をかもすことになる,注意すべきは言葉であるという道徳の箴言に類した句である。こういう句を作ることが俳句の正道であるという事はいえない」。ま、そういうことになるのだろうが、私はちょっと違う見方をしてきた。発表された当時には、かなり大胆かつ新鮮な表現で読者を驚かせたのではないのかと……。なぜなら、江戸期の人にとって、この「唇」という言葉は、文芸的にも日常的にも一般的ではなかったろうと推察されるからである。言葉自体としては、弘法大師の昔からあるにはあった。が、それは例えば「目」と言わずに「眼球」と言うが如しで、ほとんど医術用語のようにあからさまに「器官」を指す言葉だったと思われる。普通には「口」や「口元」だった。キスでも「口吸ふ」と言い、「唇吸ふ」という表現の一般性は明治大正期以降のものである。そんななかで、芭蕉はあえて「唇」と言ったのだ。むろん口や口元でも意味は通じるけれど、唇という部位を限定した器官名のほうが、露わにひりひりと寒さを感じさせる効果があがると考えたに違いない。「目をこする」と「眼球をこする」では、後者の方がより刺激的で生々しいように、である。したがって、ご丁寧な前書は句の中身の駄目押しとしてつけたのではなくて、あえて器官名を持ち出した生々しさをいくぶんか和らげようとする企みなのではなかったろうか。内容的に押し詰めれば人生訓的かもしれないが、文芸的には大冒険の一句であり、元禄期の読者は人生訓と読むよりも、まずは口元に刺激的な寒さを強く感じて驚愕したに違いない。(清水哲男)』(出典元)。今回は唇について。

冒頭の画像は朝日新聞「折々のことば」です。
「唇のまわりに、文化が横たわっている。」ミッシェル・セール
 食べる、味わう、話す、歌う、泣く、笑う、愛撫する。口は文化を最も基本的なところで担う器官だ。知性の原型もそこから蠢き(うごめき)はじめる。赤子は物の形状を齧って(かじって)確かめるし、考えるとはそもそもが、ものごとを吟味すること、つまり味わい分けることだ。そしてホモ・サピエンス。語源をたどれば「味わう人」を意味する。フランスの哲学者の『五感』(米山親能訳)から。

ヒトにおける歯の発生は胎生六週頃、かなり早い段階で口や歯はでき始めます。その意味は、それだけ重要ということ。口ができなければ、食べることはできません。日々、訪問診療に携わっていると「口」「歯」「唇」の重要性を感じます。最近特に感じることが「ウガイする力」です。ウガイできる方は「咀嚼・嚥下」「モグモグ・ゴックン」がおおかたできます。逆に「ウガイする力」が弱まるとともに、摂食・嚥下にいろいろと問題が生じます。ウガイする力を維持してください。具体的には、日々「ぶくぶくウガイ」の励行、準備運動としてウガイトレーニングをおすすめします。水(白湯でもお茶でもOK)を口に含んで「ぶくぶく」ぺっ(吐き出す)でもいいし、そのまま飲み込む「ぶくぶくゴックン」でも構いません。食前にすれば「準備運動」、食後にすれば「口の洗浄」「歯の素洗い」となります。最後まで口から食べるために、是非「ウガイする力」を保持してください。来週から季節通りの寒さになるようです、皆様ご自愛の程ご歯愛の程。

追加:「口」が出てきます。口は生き物の入り口であり始まりです。
追加2:冒頭の折々のことばは「BBTime 549 唇」でも。