BBTime 590 煩悩ニュートラル

「百八はちと多すぎる除夜の鐘」暉峻康隆

2022/9/28投稿
九月の終わりに除夜とは気が早すぎるのですが・・あしからず。解説には『季語辞典で、鹿児島県志布志町の寺に生まれた暉峻は、百八の鐘のルーツを探っています。以下、要旨を記します。江戸中期の禅宗用語辞典『禅林象器箋』(1741)に「仏寺朝暮ノ百八鐘、百八煩悩ノ睡ヲ醒ス」とあり、寺の百八の鐘は毎日の朝暮の鐘のことだった。それをサボッテ、除夜だけ百八鐘を撞くようになったのは江戸後期からである。』(解説より抜粋)。百八の由来は諸説あるようです。今回は煩悩についてのエッセイ。

文藝春秋とnoteの共同コンテスト「文藝春秋SDGsエッセイ大賞」に提出した文章です。タイトルはカーボンニュートラルならぬ「煩悩ニュートラル」
 『昔のこと。民放テレビ局の周年記念で、マーガレット・サッチャー氏の講演を聴いた。「無理がなければ無駄がない」の言葉が心に残る。常々御意と思う。逆を言えば「無理をするから無駄が生じる」。しかし所詮ひとの世、生きていくためには無理をする。もっと便利に、もっと美味しく、もっと快適に、もっと速く、もっと売れるようにと枚挙にいとまがない。全て煩悩のなせる技である。
 NASAがスペースコロニー研究のために作ったエコスフィアというモデルがある。ガラス球に数匹のエビ、藻、空気、人工海水が密閉されており、適度な光と温度のみ与えることで、この小宇宙は数年にわたり持続可能であると言う。一切無駄が無いのでサステナブルなのである。ひとの世において「無理しない」「無駄がない」は無理な話、しかし無理を減らす、無駄を減らすは可能だ。否、せねばならない。そこで、カーボンニュートラル同様「煩悩ニュートラル」の提案。
 日々歯科診療に携わっていると切に思う。歯科医なりたての頃は「甘いものを控えてください」と本気で言っていたが、今は「食べたらケアしてください」と話す。ムシ歯予防は可能である、ムシ歯になる前に足を運んでくれれば確実に予防できる。ヒントとなる経験をひとつ。タオル洗濯の際、洗濯機にタオル・洗剤・水の順に入れて回すと、途中でタオルが偏り止まった。そこで一案、まず洗剤を入れ、水を張り、そこにタオルを入れていけば止まることなく完了する。タオル・洗剤・水は同じ、順序を変えるだけで結果が異なる。

 「予防にまさる治療なし」と言うが、あまたの病の中でムシ歯のみがほぼ完璧に予防できる。問題が起きてから足を向けるのではなく、日頃何も無い時に来て欲しい。ムシ歯になる前に予防処置をさせて欲しい。順序を変えるだけで健康が維持できる。後手後手医療から先手先手予防へ。歯は磨いてももらうもの。美味しいもの、甘いもの、好きなものを食べることは「喜び」すなわち煩悩。煩悩を満たすからには、見合う努力を多少なりとも生活に加えるべきであろう。努力とは精進、煩悩と精進はセットである。
 煩悩ニュートラルは新しいことではなく、昔から生活の中に存在している。「放生会」や「ラマダンにおける断食」などはその好例であろう。ひとだからこその煩悩を、ひとの知恵をもって帳尻を合わせる。煩悩ニュートラルによって地球を守ることは必ずや可能である。』
まもなく九月尽、今年も残り四分の一。皆さま、ご自愛の程ご歯愛の程。


BBTime 589 ifの壁

「月の夜のワインボトルの底の山」樅山木綿太

2022/9/18投稿 9/19「おやつ堂」リンク追加
ワイン瓶底の「そこ」は知っていましたが「山」とは!。解説には『人がワインを手にしたのは古代メソポタミア文明までさかのぼる。醸造は陶器や革袋の時代を経て、木製の樽が登場し、コルク栓の誕生とともにワインボトルが普及した。瓶底のデザインは、長い歴史のなかで熟成中に溶けきらなくなったタンニンや色素の成分などの澱(おり)を沈殿させ、グラスに注ぐ際に舞い上がりにくくするために考案されたものだ。便宜上のかたちとは分かっても、ワインの底にひとつの山を発見したことによって、それはまるで美酒の神が宿る祠のようにも見えてくる。ワインの海のなかにそびえる山は、月に照らされ、しずかに時を待っている』(解説より抜粋)。今回は底ではなく、ワイン畑の周りに見られる壁(クロ:cols)・・にかこつけて「ifの壁」。山についてはBBTime 061 知る人ぞ得!もどうぞ。

画像は仏ブルゴーニュ、ロマネ・コンティの畑。周囲をクロと呼ばれる壁(塀)で囲ってありますが、さほど高くはありません。大人であればあれば跨ぐことができる程度です。ウサギなどの小動物の侵入を防ぐためのクロなので、この高さだそうです。今回の「ifの壁」・・まずは次の画像をどうぞ。

マグカップ外側のレリーフ「Plastic Products can be lifelong companions if you care for them.(プラスチック製品であっても一生モノになり得ます。あなたが大切にすればね)」。マグカップについてはBBTime 556 Long Lifeをご参照のほど。この文章が好きです。「Plastic Products」を「Your Teeth(あなたの歯)」に置き換えれば、ムシ歯予防メッセージになるではありませんか!反芻するうちに「if」がキーだと気が付きました。if以下の「もし、あなたがケアすれば」・・これが「ifの壁」。「言う易く行うは難し」が人の世。そうであれば、壁(塀)が低ければ低いほど、ムシ歯予防は容易になり、マグカップであれば「一生モノ」になり得ます。

いかに「ifの壁」を低くするかがプロのワザでしょう。ちなみにナガオカケンメイ氏デザインのこのプラマグは、カップデザインもさる事ながら、LINEを使っての場作りによって仲間作り・仲間のチャットを可能にしておられ、マグカップへの愛着を増幅させる(育くむ)仕組みになっているように思います。仲間とは「作り手」「伝え手・売り手」「使い手」の全てを含みます。

先日、ブルーボトルコーヒーのコールドブリュを飲みました、美味でした。さて小生、歯科医の考える「ifの壁」を低くする仕掛けとは・・ズバリ「カフェ」です。カフェでムシ歯予防ができたなら、ムシ歯予防のためにカフェに行くとなれば、それは低い壁になるのではないでしょうか。いやいや、ムシ歯予防のために定期的に歯医者に言っているよとおっしゃる方、是非お続けください。かたや行っていない人の壁は何でしょう?小生はカフェが壁を低くすると思います、低く出来ると信じます。来年二月、ムシ歯予防カフェ「おやつ堂」オープンです!情報はインスタグラム@oyatsu.doにて。皆さま、ご自愛の程ご歯愛の程。ご紹介する曲はもちろん「if」!

BBTime 588 月夜の駄文

「夕月夜人は家路に吾は旅に」星野立子

2022/09/13投稿 9/15旧敬老の日「曲」追加 9/16三曲追加
句の解説は『これから旅に出る作者が、駅へと向っている。私にも何度も覚えがあるが、重い旅行鞄を提げ、勤め帰りの人たちの流れに逆流して歩く心持ちは、妙なものである。旅立ちの嬉しさと、束の間にせよ、住み慣れた町を離れる寂しさとが混在するようなのだ。「夕月夜」だから、天気はよい。それがまた、かえって切なかったりする。そんな気持ちを、言外に含ませている句だ。夜行列車で出かけるのだから、かなりの遠出を想像させる。新幹線のなかった時代には、東京大阪間くらいでも、多くの人が夜行を利用していた。昼間の急行でも九時間以上はかかったので、よほど早朝に乗らないと、着いた先では夜になってしまう。それよりも、寝ながら行って朝着いたほうが、気持ちもよいし時間の経済にも適うという心持ちであり理屈であった。ところで「夕月夜」だが、単に日の暮れた後の月夜ではなく、新月から七、八日ごろまでの上弦の宵月の夜を言う。夕方出た月は、深夜近くにはもう沈んでしまう。そんなはかない月の姿も、掲句に微妙な色合いを与えている。ちなみに今宵の月は満月を過ぎたばかりなので、厳密には句の感興にはそぐわない。『実生』(1957)所収。(清水哲男)』(解説より)。今回は最近書いた駄文二文。

「coffee innovate:コーヒーイノベート」春過ぎから足繁く通うようになりました。奇妙な面白い不思議な珈琲スタンド(カフェ)です。今夏にナント!作文コンクール開催でした。そのコンクールに投稿した駄文二文、ご披露します。月愛でながら、コーヒー片手にお読みください。

「句読点」
ウイスキーよりワインを好む。持論だが、嗜好品にはそれぞれの役割がある。ウイスキーは過去へのタイムマシン。10年ものであれば10年前に、30年ものであれば30年前に思いを馳せる。残念ながらその多くは回顧ではなく反省であり後悔、みなほろ苦い。ひとり静かに、バーの棚に目を泳がせながら聞くともなくジャズに耳を貸す・・これが小生のウイスキーの飲み方。かたやワインは今。手にしたワインのエチケットを眺め抜栓する。グラスにトクトクと注ぎ鼻を入れ口に含む。トクトクがワクワクとなり、脳の中で花開く。魅惑的な人と初めて話す時のようなワクワクである。さて、コーヒーはいかに。
 その昔「コーヒーは日常における句読点」とは美美(びみ)のマスターの言葉、言い得て妙。緑茶は読点にしかなれず、紅茶は句点、コーヒーのみが句読点となりうる。朝起きて鉄瓶を火にかけ豆を挽く、湯が沸くと温度計で確かめ、秒を計りながら湯を落とす。湯気の中の薫りを探りカップに口をつける。目覚めの儀式となっている。新聞やネットに目を走らせながら、粗熱が抜けていくとともに変化する薫りと味を楽しむ、至福の時。
 賞状の文章には句読点がない。勝手に解釈するに、賞状の文章は見る文章であり、読むものではないのだ。日常において句読点がなかったらどうなるだろう。昨年のこと、コロナ禍における飲食店時間短縮中、一人暮らしのバーテンダーが店を閉めた。時に二週間、長い時で四週間。日々の会話はコンビニやスーパーでの「ありがとう」くらい、気が滅入ったとのこと。日常における何気ない会話、仕事中の必要な会話、家族とのまさに日常会話。会話がなければ、句読点も必要ない。日常に句読点がなかったらこうなるのかも。
 日々の句読点、これがコーヒー。流されがちな日常に「喝」を入れ、日々是好日を実感させてくれる。一日の流れにメリハリをつけてくれる、リズムを与えてくれる。そして安堵の一杯である。珈琲美美の伝票には「ダルマサンガコロンダすきに 世の中も変わっとる ゆっくり珈琲ば飲んで 元気に起き上がってみんしゃい 何か手があるや呂」と。そんなコーヒーが私は好きだ。

「クラインガルテン」
このドイツ語をご存じだろうか。直訳すると小さな庭、ドイツにおいて二百年以上の歴史を持つレンタル市民農園で、その多くは集合住宅が集まる都市中心部から離れた郊外にあり、小屋が併設されているものもある。週末になるとドイツ市民は野菜づくりに勤しみながら畑の脇でBBQしたり、小屋でくつろいだりと、実益を兼ねたレジャーとして人気だそうだ。先日、近所の「カフェ」でこの言葉を思い出した。
「カフェ」とはひと昔前まで喫茶店と呼ばれ、コーヒーそのものでもある。以前、美美(びみ)のマスターから興味深い話を聞いた。もともとコーヒーチェリー(コーヒーの実)の果肉部分を乾燥させた、いわば「干しコーヒーチェリー」が商品であった。それを適量口に入れ、噛んで滲み出る汁を飲み込んではまた噛む、まさにチューイングガムのようなもの。この「干しコーヒーチェリー」をクチャクチャしながらお喋りに興じる、その時のクチャクチャ音がお喋り「チャット」の語源だそうな。さて、ベドウインはその「干しコーヒーチェリー」を商品として交易の旅に出るが、いかんせんカビたり腐ったりする。いつしか果肉に代わってコーヒー豆が主役となり、乾燥豆ゆえより遠くまで流通するようになったとのこと。
「チャット」とは、今でこそネット上での対話も指すが、もともとおしゃべりである。古来、コーヒーとお喋りは好相性だが、飲みながらの対話はコーヒーが興奮剤であるためか時に討論となり激論化することもあったろう。近代、知識人や文学・美術などさまざまな分野のオタクが集い刺激し合う場としてカフェが存在し重要な役割を果たしてきた。まさにカフェでのチャットが「カルチャ」を生み育ててきたと言えよう。
「カルチャ」と言えば、そのカフェにはコーヒーの香りに加え文化もかなり匂う。日常的に絵画、絵画的アート、立体造形の展覧があり、壁には日々変貌するアート「花」が生けてある。カウンターにはイータブルアート(食べられるアート)といえるビーガンスイーツが並び、カフェの一角には「坐って半畳」の茶室が不思議な空間を醸し出している。はたまた鉄製十六角柱椅子が片隅に鎮座しており、店主と常連客が太宰治について熱く語っている。時にライブが催されると聞く。カルチャの雰囲気漂うというより、ここでは「文化空気」を吸いながらコーヒーを楽しめる。
ご存じの通り「カルティベート:耕す・栽培する」がカルチャーの語源である。なるほど「クラインガルテン」を思い出したのも合点がゆく。ここでは様々な文化野菜が植えられ栽培されている。小生のクラインガルテンはここである。そう言えば、カフェの名はカルチベートに似ていたような気がする。

さて珈琲イノベートは、現在第二回目の作文コンクール募集中です。テーマは「夜に書いた文章」・・結局、何でも可?興味ある方はこちらへ。秋の夜長、皆さまご自愛の程ご歯愛の程。

追加:この時期、口をついて出るのが(出したくなるのが)・・
「月月に月見る月は多けれど月見る月はこの月の月」詠み人知らず
詳しくはこちら。・・八つの月が出てきます、曲を追加します。まずは二つ。

残り三つはまた。9/15

ラスト一曲はどうしましょうかね。・・ラストはこの人の「月」

BBTime 587 しゃぼんだま

「水金地火木土天海冥石鹸玉」守屋明俊

2022/9/9重陽の節句 明日9/10は中秋の名月
石鹸玉の読みは「しゃぼんだま」春のようです。解説は『季語は「石鹸玉(しゃぼんだま)」で春。「水金地火木土天海冥(すい・きん・ち・か・もく・ど・てん・かい・めい)」は、水星から冥王星まで,惑星を太陽に近い順に並べた覚え方だ。昔,小学校の教室で習った。先生は「ど・てん・かい・めい」と平板に流さず,この部分を「どってんかいめい」とまるで一語のように発音されたことを覚えている。とかくあやふやになりがちな後半の部分を,強く印象づけようという教授法だったのだろう。おかげて私たちは、惑星というと、前半よりもむしろ「どってんかいめい」のほうに親近感を覚えることになった。さて、掲句。楽しい連想句だ。いくつも「石鹸玉」が飛んでいるのを眺めているうちに,作者はふっと「どってんかいめい」を思い出したのだろう』(一部抜粋)。前回「BBTime 586 惜しい惜しい」の補足のお話。ちなみに冥王星は惑星ではなくなりました(2006年)。

さて上のイラストは石鹸などを使うと汚れが落ちるメカニズムを表しています。界面活性剤(かいめんかっせいざい)という言葉を耳にされたことがあると思います。コロナウイルス完成拡大防止で盛んに石鹸などでの手洗いが推奨された理由でもあります。『界面活性剤は、界面(物質の境の面)に作用して、性質を変化させる物質の総称です。構造としては、1つの分子の中に、水になじみやすい「親水性」と、油になじみやすい「親油性」の2つの部分を持っています。この構造が、本来、水と油のように混じり合わないものを、混ぜ合わせるのに役に立ち、汚れを落とす洗浄の働きをするのです。代表的なものに石鹸(脂肪酸塩)があります』(引用元はこちら)。界面活性剤の働きによって汚れは落ちやすくなります。先に結論を申しますと・・なんと!歯の汚れは落ちません!歯の汚れ(バイオフィルム)は物理的刷掃、すなわち歯ブラシの毛先で磨いて落とさないと取れないのです!繰り返します、歯磨き粉を使っても歯の汚れは落ちません!こちらもどうぞ。

では、なぜ歯磨き粉を使うの?・・答えは「(初めは)歯磨き粉を買ってもらうためです」(詳しくはこちら)。なぜ歯磨き粉ペプソデントは売れたのか?「クエン酸とともに一定量のミント油などの薬品が含まれている」「ひんやりした刺激さえあれば、口の中がきれいになった気がします。刺激があるからといって洗浄力が上がるわけじゃありません。ただ、効果があるという気にさせてくれるんです」(引用元は「習慣の力」)。

では歯磨き粉の役割は?手を洗った後のハンドクリームと同じです。歯の表面をいたわる、歯茎に対する歯周病予防効果などです。画像の歯磨き粉は大人の方にオススメで、メーカーサイトには 
1.4つの薬用成分を配合し、歯周病を防ぎます。
2.ラウロイルサルコシンナトリウムが浮遊菌を殺菌し、口臭を予防します。
3.フッ化ナトリウムを1450ppmF配合。再石灰化を促進し、ムシ歯の発生と進行を防ぎます。
4.粘性の高いジェルなので、歯肉や歯周ポケットに薬用成分が長くとどまります。
5.弱ってきた部位をやさしく、じっくりみがける研磨剤無配合組成です。」とあり、「研磨剤無配合」研磨剤は入ってません、と明記してあります。

まとめます。歯磨き粉使用はハンドクリームと同じで、歯を磨いた後に使ってください。まず、うがいをして唾液磨きを最低でも2分以上行います。磨いた後に歯磨き粉をほんの少し(小豆大から大豆大)つけて、歯に満遍なく行き渡るように塗り付け、うがいはしません。歯磨き粉の混ざった唾を吐き出して終わりです。どうしてもはじめから歯磨き粉を使いたい方は、途中や最後にうがいは禁物です。勿体無いです。

くどい様ですが、歯磨き粉には石鹸のような汚れを落とす作用はありません。磨いた後の歯や歯茎をいたわる成分が入っています。皆さま、ご自愛の程ご歯愛の程。

BBTime 586 惜しい惜しい

「閑さや岩にしみ入蝉の声」松尾芭蕉

2022/9/3久しぶりの投稿
お久しぶりです。これほどまでに間隔があいたのは初めてです。さて前回の「惜しい欲しい」の続きです。まずは少々季節外れですが句の解説から『芭蕉のあまりにも有名な句ゆえ、ここに掲げるのは少々面映いけれど、夏の句としてこの句をよけて通るわけにはいかない。改めて言うまでもなく『おくのほそ道』の旅で、芭蕉は山形の尾花沢から最上川の大石田へ向かうはずだった。けれども「一見すべし」と人に勧められ、わざわざ南下して立石寺(慈覚大師の開基)を訪れて、この句を得た。「山上の堂にのぼる。岩に巌を重ねて山とし、松栢年旧、土石老て苔滑に、岩上の院々扉を閉て、物の音きこえず。云々」と記してこの句が添えられている。(中略)天地を結ぶ閑けさとただ蝉の声、それは決して喧騒ではなく澄みきった別乾坤だった。あたりをびっしり埋め尽くした蝉の声に身を預け、声をこぎ分けるようにして、汗びっしょりになりながら芭蕉の句を否応なく体感した。奇岩重なる坂道のうねりを這い、途中の蝉塚などにしばし心身を癒された。芭蕉の別案は「山寺や石にしみつく蝉の声」だが、「しみ入」と「しみつく」とでは、その差異おのずと明解である。』(解説より抜粋)。小生、週に一度坐禅をします。八月は三回、一回目は「まさに蝉時雨」、二回目は「ひたすら雨音」、三回目は「無音」でした。尤も無音とはいえ早朝の街の音は流れてきます。一回目「蝉時雨坐禅」終了時、なんとも言えぬ心地良さでした。ここまでは枕、もうひとつよくご存じの句。

「古池や蛙とび込む水の音」松尾芭蕉
解説は『俳句に関心のない人でも、この句だけは知っている。「わび」だの「さび」だのを茶化す人は、必ずこの句を持ち出す。とにかく、チョー有名な句だ。どこが、いいのか。小学生のときに教室で習った。が、そのときの先生の解説は忘れてしまった。覚えておけばよかった。どこが、いいのか。古来、多くの人たちがいろいろなことを言ってきた。そのなかで「実際この句の如きはそうたいしたいい句とも考えられないのである。古池が庭にあってそれに蛙の飛び込む音が淋しく聞えるというだけの句である」と言ったのは、高浜虚子だ(『俳句はかく解しかく味う』所載)。私も、一応は賛成だ。つづけて虚子は、この句がきっかけとなって「実情実景」をそのままに描く芭蕉流の俳句につながっていく歴史的な価値はあると述べている。この点についても、一応異議はない。が、私は長い間、この句の「実情実景」性を疑ってきた。芭蕉の空想的絵空事ではないのかと思ってきた。というのも、私(田舎の小学生時代)が観察したかぎりにおいて、蛙は、このように水に飛び込む性質を持っていないと言うしかないからだ。たしかに蛙は地面では跳ねるけれど、水に入るときには水泳選手のようには飛び込まない。するするっと、スムーズに入っていく。当然、水の音などするわけがない。そこでお願い。水に飛び込む蛙を目撃した方がおられましたら、ぜひともメールをいただきたく……。(清水哲男)』(解説より)。先日カフェでの話に、この句が登場。一説によると、この句の元は「禅の公案」とのこと。公案とは老師が雲水に出す問題のことです(詳しくはこちら)。

おそらく学校では「古池があって蛙が飛び込み・・チャポン」のような場面を句にしたと習われたことでしょう。先程の「一説」が源だとすると、それはそれは深遠な解釈が必要な一句なのです。難解ですのでそのまま引用します(引用元はこちら)。
『松尾芭蕉の句集『春の日』に以下の有名な句があります。
古池や 蛙飛びこむ 水の音
一説では根本寺(現在の茨城県鹿島)住職の佛頂和尚のもとで臨済禅に参じた折の一節が元になっていると伝わっています。根本寺と鹿島神宮の間で領地争いが起こり、佛頂和尚は末寺であった臨川庵(深川。現在は臨済宗妙心寺派臨川寺)に幾度となく滞在していました。和尚の滞在中に芭蕉が訪れ、参禅を重ねていたようです。佛頂和尚が尋ねました。如何なるかこれ、青苔未生以前の本来の面目。
青々とした苔が生き生きとしているけれど、苔が発生する以前の本来の面目とは何か?)すると芭蕉は、 
蛙飛びこむ 水の音
と答えたと伝わっています。この公案は、
父母未生以前の本来の面目
(お前の両親が生まれる前の、お前の本来の面目とはなんだ?)という形で、円覚寺の釈宗演老師に夏目漱石が参禅したことでも知られています。両親が未だ生まれていない時の自分とはなにか?と問われても、常識や知識では答えに窮します。けれど立ち止まって自分という存在を考え直すと、両親にとどまらず、大きな生命の流れの中に端を発していることに気づきます。大きな生命そのものが、即今みずからの中にあることを心身で知覚することが肝要だと、この公案から知ることができます。蛙が池に飛び込む音はどの時代でも不変の音ですので、芭蕉はこの公案に 蛙飛びこむ 水の音 と応えたのもかもしれません。』(引用元)。すなわち「蛙飛び込む水の音」が先に出て、後から「古池や」がついて俳句となったのかも知れません。

この伝え通りに句を解釈するならば、清水哲男さんの解説文にあるように『するするっと、スムーズに入っていく。当然、水の音などするわけがない。』と、これは正しい!理解しているようで、全くもっての頓珍漢(トンチンカン)も多々あるようです。さてやっとタイトルの「惜しい惜しい」歯磨き粉の使い方について。カルノオススメは「最後にちょびっと、うがいはしない」です。まずは現在の歯磨き粉(歯磨きペースト)の原型とも言える「ペプソデント」について。

ペプソデントがアメリカで発売されたのが1915年、1914年7月28日第一次世界大戦勃発です。ペプソデントは世界大戦がきっかけとなって世に出ました。拙ブログ「BBTime 435 ハミガキ」から引用します。『しかし、そのホプキンスも旧友からペプソデントを持ち込まれたときには、あまり興味を示さなかった。アメリカ人の歯の健康状態が急速に悪化していることは周知の事実だった。国が豊かになるにつれて、人々は甘い加工食品を大量に購入するようになっていた。第一次世界大戦の徴兵が始まったとき、あまりに多くの新兵にムシ歯があったため、口腔衛生に対する意識の低さは国家の安全を脅かす問題だという政府見解が出されたほどだ』(57-58頁より)。『問題は、歯磨きの習慣がないこの時代には、ほとんど誰も練り歯磨きを買わないことだった。口腔衛生が国家の問題となっても、誰も歯を磨かなかったのである』(引用元)。・・今から100年以上前に現れたのがハミガキペーストなんです。しかもペプソデントの目的は、なんとズバリ!ムシ歯予防効果の無いこのペーストを「使用させること・消費させること」が目的だったのです(詳しくは本「習慣の力」93ページ参照のこと)。現在のペーストには大方「ムシ歯予防効果のあるフッ化物」と「歯周病予防効果を期待する成分」が入っています。こちらの記事も参照ください。

100年たった今、正しい歯磨き粉(ペースト)の使い方を伝えます。まず、まともに作られた歯ブラシ(ホテルにある無料歯ブラシはおすすめしません)だけで磨きます。ブラシを口に入れるとすぐに唾液が出てきますので、唾液磨きをおすすめします。電動歯ブラシも同じです。一通り(3分から5分はかかります)磨いた後に、ペーストをほんの少し、3ミリから5ミリ程度で十分ですのでブラシに着けて、磨くというより歯に塗っていきます。唾液と混ざって歯全体、口全体に行き渡ったら、吐き出して終わり。うがいはすすめません。お風呂上がりに手にクリームを塗った後、もう一度手を洗いますか?洗わないでしょ、同じです。うがいしたらペーストの薬効成分が流されてしまいます。惜しい惜しい。

とは言え、この文章を読んで即実行に移す人は少ないでしょう。「雀百まで踊り忘れず」です、なかなか身についた習慣は変えられないもの御一考ください。では皆さま、ご自愛の程ご歯愛の程。