「ムシ歯の原因は?」2010/11
先日11月8日は「いい歯の日」でした。また11月22日は「いい夫婦の日」だそうです。「いい歯」は、ムシ歯ではない健康な歯だと理解できますが、「いい夫婦」の基準はそれぞれだと思います。それなりにいいから夫婦であって、よくなけりゃ一緒に居ないでしょう。さて今回はこれまた意外なお話し。
皆さんは「ムシ歯の原因は?」との質問に、どのように答えられますか。すぐさま「ムシバ菌!砂糖!歯磨き不足!」などの答えが聞こえて来そうですが・・。まずは図1を見て下さい。(図1)
歯を4つの輪が囲んでいます。いちばん外側の輪を除いた三つの輪は「カイスの輪」と呼ばれるムシ歯の成り立ちを表す古典的な図式です。そのカイスの三つの輪に「時間を含む環境」という4つ目の輪を小生が加えました。ひとつずつ見ていきましょう。
まずひとつ目、歯の輪。極めて当たり前な話しですけど、歯が無いとムシ歯にはなりません。甘いものが好きなアリやカブトムシがムシ歯にならないのは、ズバリ歯がないからです。
時間的な流れで、二つ目はムシバ菌の輪です。たまに「磨かないのにムシ歯ができん」という方がいらっしゃいますが、生まれてから二歳、三歳までの間に、いわゆるムシバ菌があまり棲みつかなかった場合で、あり得ることです。
三つ目は甘いもの・砂糖の輪です。これら三つの輪が重なった部分がムシ歯発生となるのです。ではどうすれば、その重なり=ムシ歯の発生をなくすことができるのでしょうか。
図2を見て下さい。それぞれの輪について、ムシ歯を避けるようにしてみましょう。甘いもの(食べ物)の輪は、キャンディーを果物に変えるなどで小さくできます。ムシバ菌の輪は、歯磨き、キシリトールガム、食後のうがいなどで小さくできます。一方、フッ化物の応用などで歯質を強化すると、歯の輪は大きくなります。するとどうでしょう。三つの輪の重なり部分は徐々に小さくなり、ついには無くなり、カリエスフリー(ムシ歯なし)の人生が送れるということになります。しかし目出たし目出たし・・とはいかないのが人生。人生、そんなに甘くない(笑)!
実は、この話を数年前まで担当する小学校で話していました。ある時、ふと考えました。この図の流れは本当に可能なのか?結論から言います、不可能です。理由は明白、歯はもちろん、ムシバ菌も食べ物も同じ口の中に存在します。口の中のムシバ菌をゼロにすることは不可能ですし、食べ物(砂糖)ゼロも無理な話です。歯がゼロになったら可能ですけど、これはまさしく「ハナシにならない話し」です。図3
話しを戻しましょう。ムシ歯の原因は皆さん御存じ、しかしムシ歯の予防法を御存じない。「いや、知ってますよ!きちんと歯を磨けばいいんでしょ!」と聞こえて来そうですが、よーく考えてみて下さい。御存じであっても、その方法が日常生活で不可能であったら?知ってはいるけど不可能ならば、日々の生活においては意味がないことではないでしょうか。小生が考えるに、顕微鏡的に歯の表面での「ムシ歯の原因」は、ムシバ菌と砂糖でしょうけど、日々の行動における「ムシ歯の原因」は、思うに「歯の床屋さん・歯の美容室がない」ことではないでしょうか。歯の床屋さん・歯の美容室=プロケアについては、この「イロハに!」のバックナンバー7、8、9月号を参照ください。
加えて、もうひとつ考えて欲しいことがあります。ムシ歯予防のためにプロケアを受ける、すなわち歯科診療所に定期的に通うということは、頭でわかってはいてもなかなか実行に移せないものです。歯が痛ければ、仕事を休んででも行きますが、痛みも不都合もないのに、きちんきちんと通うのは至難の技です。図4を見て下さい。やんかぶった(髪の毛が伸びて見苦しい)小学校3年生のヒデキ君は、やんかぶっていても、髪の毛から異臭を放つわけでもなく、頭痛がするわけでもないのです。ただ伸び過ぎただけ!しかし親に「床屋に行って来なさい」と言われたヒデキ君は「はい」と言って素直に床屋さんに向かいます。ここなんです!身体的困り事は全くないのに散髪に行くという行動の基準は「習慣・文化」なのです。つまり、予防に関してはその人ひとりひとりの価値観、大きく言えば人生観が基準になりうると言えるのではないでしょうか。
ビートルズを良く聴きます。好きな曲のひとつ「Hello, Goodby」の歌い出しは「あなたはハイと言い、わたしはイイエ」。予防も同じような気がします。この違いはもはや医学的な基準ではなく、その人の生き方、ライフスタイルです。歯科医にとって「カリエスフリー」はひとつのゴールです。「The Long And Winding Road:長い曲がりくねった道」であっても歩み続けます。図5
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