「スナックに煮凝のあるママの過去」小沢昭一
2022/2/4投稿 2/5追記
「現在過去未来」から渡辺真知子の歌(迷い道)を連想した方は同世代です。解説には『掲出句の煮凝は料理として作られた煮凝ではなく、ママさんが昨夜のうちに煮ておいた魚の煮汁でできた煮凝であろう。お店で愛想を振りまいているママさんの過去について、男性客たちはひそかに妄想をたくましくしているはずだが、知りようもない。知らないなりに、しみじみと煮凝をつついているほうが身のためです。まあ、女性としての変遷がいろいろとあったのでしょう。決して輝かしい一品料理ではなく、さりげない(突き出しの)煮凝に過去の変遷が重なって感じられる。ママさんの過去がそこに一緒に凝固しているようでもある』(解説より抜粋)。今回は「過去」についてのお話。
俳句に出てくる「ママ」に限らず、人にはそれぞれの過去があり「今」現在があり未来へとつながります。これは病気においても同じこと。過去(病因・誘発因子など)があって発症(現在)し、回復した後は再発予防、予後のフォローとして未来へ続きます。さて先日のこと。女性が左下の歯の違和感で来院。その方の話では痛くなりそうな時に、かかりつけで薬(軟膏)を入れてもらっていたとのこと。今回も同じような症状なので「軟膏を入れて欲しい」が主訴(しゅそ:主なる訴え・希望・困り事)。口の中を診て歯のレントゲンも撮りましたが、歯茎は腫れていないし、軟膏を入れるようなポケット(歯と歯茎の間の空間)もありません。もしやと思い噛み合わせを確認するとその歯に入れてある金属インレーのみが強く当たっていました。今の状態を鏡で確認してもらい「噛み合わせ」が原因の可能性があると説明し咬合調整しました(当たり過ぎの金属を削る)。するとその方曰く「軽くなりました」・・この金属インレーは何年も前に入れて、思い起こせばその後から左下の違和感と左肩の凝りを自覚し始めたとのこと。
診療において、まず診るのは「今」です。今の困り事を解決するであろう治療法が複数ある場合に未来(予後:よご、治療後の経過など)を説明し、患者さんの希望も加味して治療法を決めます。例えば金属の詰め物(インレー)が外れた。問題なければ再セットします。他には、大きさにもよりますが樹脂を埋めましょう(CR充填)、新たにムシ歯ができているので新しく作りましょう、などの選択肢が考えられます。患者さんにオススメしたいのが「なぜ?外れたのですか」と歯科医に尋ねてみたください。その質問に歯科医は「キョトン」とするかもしれません。ケースにもよりますが、理由が歯科医にわかる場合とはっきりしない場合とあるでしょう。いずれにせよ「外れた原因は?」と聞くことをオススメします。
人の体は超精密機械(ロボット)です。不都合が起きる場合には必ず原因があると言えます。転んで歯を折ったなどの外傷以外は、ほぼ過去があっての今です。ムシ歯も同じ、習慣的に(砂糖いっぱいの)缶コーヒーを飲んでいる方は、それなりのムシ歯の出来方となります。入れ歯(義歯)が割れた時その時の対応が、ただ破折部位の接着であればまた割れる可能性があります。過去(割れた原因)を歯科医が診ていなければまた割れます。繰り返しますが「過去」を聞いてみてください。では皆さま、ご自愛の程ご歯愛の程。
追記2/5:定期検診などで「ムシ歯ですね」と診断されたら「なぜムシ歯が新たにできるのですか?」と聞いてみてください。おそらく歯科医は「磨き方が足りなかったからでしょう」と答えます。「毎日磨いているのに、何が足りなかったのですか?」とさらに質問してください。それに対する答えでその歯科医の力量がおおよそ分かります・・日常、歯を磨いているのにムシ歯発生・・原因は必ずあります。その核心を突き止めなければ、数ヶ月後の定期検診で再び「ムシ歯がありますね」と言われるでしょう。核心が明らかにならなければ、不十分な予防しかできません。過去(原因)あっての今であり未来です。