「携帯でつながつてゐる春夕べ」田口茉於
2022/3/14投稿
画像は朝日、去る3/10朝6:47の桜島。さて今回は昨年秋、ある募集に応募したエッセイのご紹介。テーマは「つながり」、ではでは・・タイトルは「おかげさま」です。
人はさまざまなつながりの中で、生まれ、育ち、生きて、死ぬ。親のつながりで生まれ、親とのつながりで育ち、社会とつながりながら生きて、一生を終える。学生時代、生化学の試験で苦い記憶がある。試験中、解けない問題を前に今この腕の筋肉で起こっている反応なのに、見えない、理解できないとはと地団駄を踏んだ。その後、歯科医として臨床にあたる中で、この時の苦い記憶から「内とのつながり」を考えるようになった。
内とのつながりとは「人は体内における様々なシステムに類似した行動行為をとる・類似したモノを作る」である。例えば「免疫と挨拶」:都会では薄れてはいるが、いまだ田舎では道すがら出会う人と挨拶を交わす。会釈だけで済ませることもあるが、相手を認識する。これは免疫システムに類似している。免疫では「自己非自己」が肝で、それは自己(味方)なのか、ウイルスなど体外から侵入した非自己(敵)なのかを見極めるのである。非自己であるとわかれば攻撃して排除する。「あんたはどこの人かえ?」「〇〇の次男です」「言われてみれば母親似やなぁ、大きくなったね」というように敵味方を挨拶によって識別している。
また「常在菌と時間配分」。口腔内の常在菌の棲み分けは三歳の頃には決まると言われ、三歳までにムシ歯菌が少なく、他の菌が多く棲みついた人はムシ歯になりにくい一生を送ることができる。腸内細菌フローラにおける善玉菌と悪玉菌なども同様である。この棲み分け言わばシェア(比率)は行動の時間配分に類似する。大人から見れば、子供は暇そうに見えるが、子供には子供のやるべきことが日々決まっており忙しいし、中学生から見れば幼稚園に通う弟には十分な時間があるように見えるが、弟は弟でスケジュールがぎっしり埋まっている。
はたまた何かとニュースになる浮気も然りで「新陳代謝と心変わり」。人体は長くても髪の毛の数ヶ月で、多くは日々新しい細胞にとってかわる。半年も経つと細胞レベルでは別人となる。余談だが歯は新陳代謝しない。
体内と人との究極の類似は「細胞壁と廓然無聖」ではないだろうか。動物細胞には壁がない、達磨さんは「廓然無聖」と言い放った。まさに壁はない。
内とのつながりを考えるに逆も真なりと、行動変容で体内の状態を変えることができるのではないか。笑うと免疫力がアップすると言われ、数々の実験で証明されているのが好例である。未だ人体の謎は多く、謎の解明は医学の発達につながる。ヒトの習性とも言えるような行動行為が体内活動の何に類似しているかを研究することで、謎解きの手助けになるのではないかと思う。
もうひとつ例をあげるならば現在のネット社会である。デジタル機器そのものも人体の模倣と言えるが、インターネットやデジタル機器の使い方なども、まさに体内と同じである。血管が毛細血管となってまさに隅々までネットワーキングしている。血管に加え神経も然り。様々な物質の運搬が血管のネットワークでなされていることは、宅配などの物流に他ならないし、痛みや温度などを感知し脳に届ける神経はSNSである。しかも知覚神経と運動神経の関係は、ネットの特性のインタラクティブ(双方向)と同じである。
「つながりで生まれ育ち生きて死ぬ」において他者や環境とのつながりが重要となる。思うに「つながり」とは自己と体内、自己と他人、はたまた自己と地球など、本人が認識しているつながりもあれば、気がついていないつながりもある。すなわち宇宙を含めた人様によって生かされている。お陰様に「陰」の字を用いるのは、認識されていないつながりを暗示しているのではないか。「おかげさま」が「つながり」の極意と言えよう。
「悲しみはつながっているカーブする」徳永政二
句の解説に『2011年も終わりに近づいている。自分が生きてきた中で今年は今までと違う一年だったと思う。3月11日の東日本大震災の津波と原発事故。私は現地へ行ったわけでもなく、被災した人たちから直接話を聞いたわけでもないが、深く心に突き刺さった出来事だった。いや「だった」と過去形ではなくそれは今も続いている。一度起こったことは片付くなんてことはない、それは形を変えていつまでも続くのだ、と言ったのは夏目漱石の『道草』の主人公だったと思うが、そうした現実から滲みだしてくる悲しみが人の心を伝わって双曲線を描きながら自分に帰ってくる。それが言葉になって表現できるようになるのはいつだろうか。川柳は俳句にはない直接性があり、時折ダイレクトな言葉の手ごたえを感じたいときには川柳を読む。』(解説より抜粋)。ウクライナの青空が赤く赤く焼け、小麦の実る豊かな大地が焦土となっている。祈りだけでもつなげたい!ご自愛の程。