BBTime 625 生きる入り口

「うなぎの日うなぎの文字が町泳ぐ」斉藤すず子

2023/07/31投稿
はやいもので七月文月も今日でお終い、明日から葉月八月。昨日7/30が土用の丑でした。解説は『季語は「うなぎの日(土用丑の日)」で夏。ただし、当歳時記では「土用鰻」に分類。この日に鰻(うなぎ)を食べると、夏負けしないと言い伝えられる。今年は今日が土用の入りで、いきなり丑の日と重なった。したがって、この夏の土用の丑の日はもう一度ある。鰻にとっては大迷惑な暦だ。句のように、十日ほど前から、我が町にも鰻専門店はもちろんスーパーなどでも「うなぎの文字」が泳いでいる。漢字で書くと読めない人もいると思うのか、たいていの店が「うなぎ」と平仮名で宣伝している。面白いのは「うなぎ」の文字の形だ。いかにも「うなぎ」らしく見せるために、にょろにょろとした形に書かれている。なかには、実際の姿を組合わせて文字に仕立てた貼紙もあって、句の「うなぎ」表記はなるほどと思わせる。作者は、夏が好きなのだ。もうこんな季節になったのかと、町中を泳ぐ「うなぎ」に上機嫌な作者の姿がほほ笑ましい。今宵の献立は、もちろんこれで決まりである。私は丑の日だからといって鰻を食べようとは思わない性質(たち)だけれど、世の中には、こういうことに律義な人はたくさんいる。名のある店では、今日はさしずめ「鰻食ふための行列ひん曲がる」(尾関乱舌)ってなことになりそう……。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)』(引用元)。うなぎ食べたしと思えど、値段鰻登りゆえ食卓に登らず。うなぎでも竹輪でも口から食べる、生きる入り口についてのお話。

あまり詳しく書けないのですが(ご容赦の程)。ある時ある処(高齢者施設)からの依頼が「嚥下してくれないので何とかして欲しい」診せていただきました。職員さん曰く「モグモグするんだけどゴックンしてくれない」。口腔内はほぼ無歯顎(むしがく:歯がないこと)1本だけ根っこのみ有り。見てると確かにモグモグされます。舌の触診で「オヤッ?」・・舌根部(ぜっこんぶ:舌の奥、根本部分)がこわばって、口を開けてもらっても喉チンコが見えません。舌根部が盛り上がって、口の奥を塞いでいるような状態でした。また小生の指で、その方の舌根部を押さえても「ウエッ」とされません。診断:何らかの理由で舌根部の機能低下、よってモグモグしても奥が開かないので食べ物が入っていかない、ゴックンできない。

そこで「舌機能の回復、舌根部の運動改善」を考えました。ピンときたのが「竹輪」。5センチほどに切って口の中に・・モグモグされます(リハビリ目的)。竹輪であれば穴が空いているので万が一のリスクも低いかと思いつつ、食事前の準備運動的に見守りながらの「竹輪モグモグ」を勧めてみました。大丈夫だったかなと後日訪問すると・・。

竹輪がパンダに変わっていました。この器具「ペコぱんだ」は舌機能訓練器具です。詳しくはこちら。思いました・・パンダだけに竹(竹輪)と相性がいい!・・後日、モグモグに続いてゴックンができるようになったとのこと。そこで早速、舌を触診すると・・あら不思議、舌根部が軟らかくなっているのです。続きはまた報告します。

鰻丼には思い出があります。昔のこと・・初フルマラソンが指宿菜の花でした。30数キロ過ぎ、池田湖を背に海辺に出ます。マスクをして走る人を見て「なぜマスクなの?苦しくないの」と思いました(当時、コロナのコの字も世の中にない頃)。無事完走(四時間半)し帰宅後部屋で横たわっておりました。次第に強烈な空腹に襲われ黒電話(ケータイもない頃)で出前注文「あのう、鰻丼ひとつ」。来ました来ました!蓋を開け、湯気と香りを充分に吸い込んで、まずは鰻だけを口に・・ところが飲み込めません。喉が潮風にやられていて、痛みで飲み込めないのです。この時マスク走者の理由がわかりましたが時すでに遅し。もう一度気を取り直して口に・・やはり痛くてゴックン不可。唾液は出る涙も出る・・嚥下できないことがこんなに辛いとは!呆然としつつも何とかウナギだけは胃に収めました。

小生の鰻丼と嚥下障害は意味が違いますが、「口から食べる」ことは生きること、口は「生きる入り口」であると訪問診療をしていて切に思います。理由はそれぞれで解決できない、無理な場合もあることでしょう。しかし「口から食べる」を可能な限り死守してほしいと思います。また歯科医師の最終治療は「いかに口から食べることを可能にするか」だと今更ながら、今頃になって痛感しております。食べるを治療する、食べる治療、精進します。皆様、ご自愛の程ご歯愛の程。

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