BBTime 264 ハナシのままーアリのまま
「いれものがない両手でうける」尾崎放哉
先日「しつこくインプラントすすめられたんですけど・・」と質問からのハナシ。30代前半女性患者さん、左上の六番(第一大臼歯)を抜いて(失って)現在八年経過、前医(別の歯科医)よりインプラントを強く勧められ、次回来院時まで決めておくよう言われ嫌になって転院とのこと。一通りお話を聞いた後にこちらから質問「歯がないことで今、何かお困りですか?」『いいえ、別に』との答え。「では必要ないでしょ、歯無しのままでいいんじゃないですか」『?エッいいんですか』
患者さんを今の状態より幸福にすることが医療です。多くの場合、困りごと・心配事を持って患者として来院されます。歯がなくても、歯が黄色くても、歯並びが良くなくてもその方(来院者・患者)にとって困り事でなければ、それは「アリのまま」「何もしない」「治療しない」という選択肢もアリです。
ただし「そのまま・ありのまま」の場合、将来起こりうるリスクへの配慮は必要です。その女性は抜歯後八年経過とあって、その隙間(空間)は本来の半分程度に狭まっていました。歯がない空間を補う方法として1)ブリッジ(橋渡し)2)一本だけの部分床義歯3)インプラントなどが考えられます。できれば綺麗な隣の歯を削りたくはないと希望され、今後歯が動いたりするのではないかという不安もお持ちでした。
こちらからの提案は「隣の歯を削る必要のない、一本だけの取り外しの義歯(入れ歯)を作って、食事に問題なければ日頃(日中)は使用せず、夜寝るときだけコルセットがわりにはめてお休みになればいかがでしょう」です。この方、食事(食べること)に現在困りごとはなく、この先奥の歯並びに問題が起こるのではないかという不安をお持ちでした。「一本義歯を作って、昼間使用せず就寝中のみコルセットがわりに使用する」これが一番ベストな解決策(治療)だと判断しました。費用も出来上がりのときだけで五、六千円(3割負担)でしょう。
インプラント一本50万円として、一本義歯の50倍の費用だとしましょう。五十倍の費用をかけて、あなた(患者さん)が五十倍幸せになるのであればまだしも・・。五十万円の買い物をするときには恐らく50万の価値以上を期待しての買い物ではないでしょうか?歯が無ければ歯医者は歯を入れることをすすめます。英会話先生は英語を習うことをすすめます。車販売店の人は車の購入をすすめます。義歯・インプラント、英会話、車でもまずはあなた自身がどの程度それを必要としているかです。必要性を感じるならば、次はその価格です。医療も同じ治療も買い物です。
バーゲンセールで不要なものまで買ってしまった経験もおありでは・・。必要なものは何か?何が不安か?何を歯医者に求めるのか?をしっかり整理して相手(歯科医師)にはっきり伝えることは重要なことです!(本来は歯科医師がしっかりとそれを見極めて治療内容を提案すべきなのですがね)。7200