BBTime 665 はて?九月

「空っぽの人生しかし名月です」榎戸満州子

2024/09/14投稿
 今年の十五夜は9/17、満月は翌18日。まずは句の解説『今宵(2011.9.12)は仲秋の名月。名月の句は数えきれないほどあるけれど、この句はかなり異色だ。作者はべつに名月を待ちかねていたわけではないし、愛でようとしているわけでもないからである。しかも「空っぽの人生」とは言っているが、作者が自分の人生を深く掘り下げて得た結論でもなさそうで、せいぜいがその場の自虐的な感想程度にしか写らない。そう私が受け取るのは、たぶん「しかし」という接続詞が置かれているせいだろう。この「しかし」はほとんど「ともあれ、とまれ」と同義的に使われていて、前段を否定しているのではなく、それを容認する姿勢を残しつつ、後段に想いを移すという具合に機能している。つまり「人生」と「名月」とは無関係と認識しつつ、それこそ「しかし」、作者は無関係であることに感慨を抱いてしまっている。感慨無き感慨と言ってもよさそうな虚無的な匂いのする心の動きだ。こう読めば、作者の人生ばかりではなく誰の人生もまた、日月のめぐりのなかで生起しながら、やがては日月のめぐりに置き去りにされていくという思いにとらわれる。『現代俳句歳時記・秋』(2004・学習研究社)所載。(清水哲男)』(引用元)。前回の「はて?違和感」に続いて今回も「はて?」のお話を二つ

 例年九月になるとBBTimeで曲「September:セプテンバ」を紹介しておりました。ある時ある人から「それって12月の歌だよ」。「はて?」と確認したところ、そうでした!歌詞では「今は12月、9/21のことを覚えているだろう」。そうならばタイトルを「セプテンバ:九月」にするなよな!と思います。歌詞の和訳はこちらを。

 先日、小生自身の口のメンテナンス(月に一回)での会話。担当歯科衛生士「先週、スケーリング(歯石取り)の研修でした」「あと、器具のシャープニングも」。シャープニングとは歯石を取るハンドインスツルメント(手用器具)の刃を研ぐことです。聞きながら思いました「はて?」

数ヶ月ごとのメンテナンスで、歯の根っこをガリガリと歯石除去受けられた方も多いでしょう。歯石除去は必要です!小生の「はて?」は、歯石がつく前にメンテしてあげたほうがベターではないの?です。歯石除去とは、歯の根っこ、詳しくは根を覆うセメント質表面にしっかり付いた(歯ブラシでは除去できない)歯石を、器具を使って(おそらく)セメント質表面もいくらか削り取るのです。セメント質の下は象牙質(ぞうげしつ)で、歯髄(しずい:歯の中の神経)からの細い神経が通っています。歯石除去後に「歯がしみる、スースーする」などはこれも原因でしょう。極端な言い方をすれば、歯石除去(ガリガリ)ごとに根っこが細くなるのです。歯石除去は必要です!ならば歯石が付く前に歯垢の段階で除去してあげる方が良いのでは。

ネットを見ると『歯垢(プラーク)が残ったまま放置すると、個人差もありますが2~3日で石灰化し始め、やがて歯石へと変化して除去しにくくなります』(引用元)。残ったプラークが「数日で石灰化し始める」とは、歯石が数日で付くということではありません。小生の経験では毎月(月に一回)メンテナンスに通えば「ガリガリ」はほとんど不要です。1)患者さんへ:数ヶ月・半年ごとにメンテナンスに通っている方は是非「月に一回」通ってください。2)衛生士の方へ:担当の来院者(患者さん)に除去すべき歯石を見つけたら(もちろん除去されると思いますが)メンテナンス間隔についてもプロとしてアドバイスしてあげてください(ガリガリが極力不要な間隔)。保険診療の絡みで「三ヶ月に一回でいいですよ(毎月は無理です)」と言われたら、粘って「是非月一回」を希望してください。どうしても歯医者が「ハイ」と言わなければ思い切って変えましょう!

では皆様、ご自愛の程ご歯愛の程。もちろん曲は「セプテンバ」!

BBTime 660 届けるものは

「今生の今が倖せ衣被」鈴木真砂女

2024/07/13投稿
掲句の読みは「こんじょうの今が倖せきぬかつぎ」秋の句です御容赦を。画像は奈良は萬御菓子誂處「樫舎:かしや」にて。さて昨年春から訪問診療がメインになり丸一年経つ中で、大きく変わったことがあります。訪問診療なので、ご自宅や施設にこちら(歯科医師・歯科衛生士)が出向きます。いわば「何か」を届けるのです。訪問歯科ですので想像に難くないと思いますが「歯科治療」を届けます。義歯の修理・調整ときに新製、ムシ歯の治療、歯周病の治療、抜歯などの外科処置など。

(奈良フロレスタのドーナツ)
受ける依頼には「歯は無い、義歯も使えない」「咀嚼(モグモグ)はできても嚥下(ゴックン)ができない」などそれぞれの困り事があります。認知症状がある方もいらっしゃいます。次第に、歯科医師が提供すべきは「歯の治療、義歯の修理」というより、いかに「食べる」を治すか、「食べる」をアシストできるか!だと思い始めました。歯や義歯はあくまでも食べるための道具であって、その方が嚥下する嚥下できることが、より重要であり必要なのです。「食べるを治す」は訪問のみならず外来においても同じだと(遅まきながら)痛感しております。

(銀座空也のもなか)
そうするうちに、さらに新たな気づきが・・・具体例でお話しします。まず始めたことが昨年秋から「BGM」の導入、詳しくは「BBTime 638 Music for 介護」をどうぞ。よく音楽や歌は時間や国を超えると聞きますが、訪問の現場でもその通りです。百歳に近い方を青春時代に戻したり、コミニュケーションの取れない方の表情を温和にしたり。先日は二十歳未満の方の部屋へ出向きました。初対面の挨拶後、リクエストを聞くと「キョトン」。女性スタッフが説明すると緊張した面持ちながら「なにわ男子」との答え。早速スマホで流すと、途端に笑みがこぼれました。ある日のこと、このBGM導入のきっかけとなった元バスガイドさんのお宅で演歌ではなくいつもと違う音楽が流れていました。ご主人曰く「二階の棚にあったCDをかけています。同じものだと(奥様から)「飽きた」と言われたので」。そこで「小生の聴かなくなったCDを今度持ってきますね」。次回、処分を考えていたCDを数枚持参したところ、ご主人「いやあ、覚えてくださっていたのですね」と感激。ハッと思いました「ご自宅というより、この部屋だけがこのベッドだけが奥様の世界」。通常とは異なる世界観。CD数枚でこんなに喜んでくださるとは!今回持参した中の一押しは「前川清」でした。

(太宰府梅園の宝満山など)
ある方は百歳を超えていらっしゃいます。何気ない会話の中で、小生が早朝ポタリングで撮影した蓮で盛り上がりました。昔、そこにあった女学校に通っておられて、その時の蓮を今でも鮮明に覚えていらっしゃるとのこと。数日後、たまたま文具店で見つけた蓮の版画絵葉書、早速購入し次回持参したところ大喜び。そこで一案、毎回「蓮」の写真などを持っていきます!

(鶴丸城跡御楼門の蓮)
午前の訪問は大方お昼前までお邪魔します。ある施設は食堂のすぐ横が厨房で、いつもいつも美味しそうな匂いが流れてきます。小生も引き寄せられて調理担当の方と言葉を交わすようになりました。その方曰く「その日届いた材料と睨めっこしてメニューを決めます」。これを聞いて一案!BBTime 655 シンブログでご案内の通り雑誌オレンジページのネット版にブログを書くようになって、手元に毎号送られてきます。このバックナンバーを調理担当の方に差し上げることにしました。

「歯を治す」から「食べるを治す」さらに「今の倖せ」の素材を届ける。この「倖せ素材」は人それぞれです。またその方ご自身が「私の素材はコレです!」とリクエストされる訳ではありません。訪問診療や会話の中でこちら(歯科医師)が見つける・探すしかないと思います。先月のこと、我々訪問後翌週に亡くなられた方の報を受けました。驚くとともに、最後の晩餐とは言えなくとも最後の食事の前に口腔内をきれいにしてあげることができたのではないかと、合掌しました。まだまだやるべき事はあります、探すべきものがあります、精進いたします。皆様、ご自愛の程ご歯愛の程。

BBTime 638 Music for 介護

「あたたかき十一月もすみにけり」中村草田男

2023/11/23投稿 11/29報告追加
 昨今の気温について、掲句の解説のようには受け止められない「今年」です。解説は『旧版の角川書店編『俳句歳時記』には、この句と並んで細見綾子の「峠見ゆ十一月のむなしさに」が載っている。長年親しんできた歳時記だから、毎年この時期になると、二つの句をセットで思いだすことになる。並んでいるのは偶然だが、いずれもが、十一月という中途半端で地味な月に見事な輪郭を与えていて、忘れられないのだ。忙中閑あり。……ならぬ、年の瀬をひかえて「忙前閑あり」といえば当たり前だが、両句ともそんな当たり前をすらりと表現していて、しかもよい味を出している。ただ草田男句の場合は、どちらかといえば玄人受けのする作品かもしれない。(清水哲男)』(引用元)。今回は介護と音楽について。

 歯科訪問診療で介護の現場に出向きます。訪問先で感ずること二点、明るさ(照明)と音。居宅(ご自宅)であっても施設であっても様々です。今回新たな試みを始めました。今までも可能な限り、ご家族や職員の方に一言断って、カーテンや窓を開けて外光を入れたり換気したりしていました。また、その場の「音」・・テレビ、ラジオ、BGMなどの音があることもあれば無音のこともあります。大雑把に言えば、戸やカーテンが閉まって(明るくなく)音がない部屋は、空気は重く暗く感じます。

介護を受けられるご本人が耳が遠い故の無音なのかも知れません。明るい空間(現場)もあります。明るい部屋にベッドがあり介護される方も明るい。あるお宅はご主人が奥様を介護されています、奥様は元バスガイドさん。いつも音楽が演歌、歌謡曲とエンドレスで流れてきます。小生がイントロ当てクイズよろしく「これは前川清」と言って間違っていると、奥様は寝たまま大笑い。ご主人と奥様のやりとりはまさに夫婦(めおと)漫才。かたや暗い空間もあります。光は届いていても「無音」、九十代半ばのお母さんを六十代半ばの息子さんがお世話していらっしゃる。介護鬱(うつ)を疑いたくなるくらい気落ちされていることも。帰りしな思いました「音楽をかけよう!」

簡単です、手元にスマホがあります。早速BGM作戦開始!はたと考えました「何をかけよう?」その時に浮かんだ曲がチャップリンの「Smile:スマイル」。早速spotifyで検索すると、様々な歌手がこの曲をカバーしているチャンネルがありました。狙いは「ご本人」「介護する人」「我々(歯科訪問診療)」へのBGMです、スマイルです。

効果の検証はこれからです。先日百歳過ぎ女性の口腔ケアでした。会話は成立しませんが、言う事は理解してくださいます。ケア終了後「今日はこれで終わりです、また来ますね」と大きめの声で言うと、感謝と喜びの気持ちが充分に伝わる目だけの笑顔で見送ってくださいました。「目は口ほどにものをいう」と言いますが、これほどまでに伝わるとはと驚くほどの「目だけ笑顔」でした。Music for 介護、試行錯誤していきます。皆様、ご自愛の程ご歯愛の程。

報告11/29 報告します。
1)ご家族、施設の方に「音楽をかけながらさせて頂きます」と言うと、皆さん「それは、良いですね」との反応でした。
2)コミニュケーションの取れない方には、こちらが勝手に選びます。取れる方には「どんな歌がお好きですか?」と聞きます。ある方は「演歌がいいです」・・早速流したところ、口腔ケアの合間合間に口ずさんでおられました、その曲は石川さゆりの「津軽海峡・冬景色」。
3)コミニュケーションの取れない女性。スタッフが「この方は天文館(繁華街)でお店をされていたそうです」・・この方にも演歌を流しました。おそらく耳に届いていたことでしょう。情報に病歴はありますが、音楽歴も加えて頂くと助かると思いました。
4)演歌、文部省唱歌、洋楽でおおかたカバーできるでしょう。
5)音楽はエンターテイメントに分類されることもあります。介護の現場に更にエンターテインメントを取り入れることを進めていきます。続き、また報告します。11/29

https://youtu.be/xuMKgVJQZkQ?si=7WI7tvrOwlGH87bs

BBTime 632 食べるを治す

「笑ひ茸食べて笑つてみたきかな」鈴木真砂女

2023/10/04投稿
暑い暑いと汗かいている間に九月から十月神無月へ。句の解説『軽い好奇心からの句ではあるまい。八十歳を過ぎ、心から笑うことのなくなった生活のなかで、毒茸の助けを借りてでも大いに笑ってみたいという、一見するとしごく素直な心境句である。が、しかし同時にどこか捨て鉢なところもねっとりと感じられ、老いとはかくのごとくに直球と見紛うフォークボールを投げてみせるもののようだ。よく笑う若い女性にかぎらず、笑いは若さの象徴的な心理的かつ身体的な現象だろう。どうやら社会的な未成熟度にも関係があり、身体的なそれと直結しているらしい。したがって、心理的なこそばゆさがすぐにも身体的な反応につながり、暴発してしまうのだ。私はそれこそ若き日に、ベルグソンの「笑いについて」という文章を読んだことがあるが、笑い上戸の自分についての謎を解明したかったからである。何が書かれていたのか、いまは一行も覚えていない。といって、もはや二度と読んでみる気にはならないだろう。いつの間にやら、簡単には笑えなくなってしまったので……。(清水哲男)』(解説より)。先日、地元民放テレビ中継時、小生の決めゼリフ(笑)・・「食べるを治療し、美味しいを守る」より「食べるを治す」について。

訪問診療に携わっていると、診療室内チェアサイドとは異なるシーンに出会います。端的に言うと「チェアサイドの常識が当てはまらない」。順不同でいくつかあげてみます。
1)補綴物はコントロール可能な人のための形態である。補綴物(ホテツブツ)とは、歯にかぶせる冠(クラウンなど)、歯がない箇所を前後の歯で補う(おぎなう)ブリッジ、義歯(入れ歯)等のことです(こちら参照)。
2)例えばブリッジの歯がない部分の橋渡しをポンティックと言います。歯がない部分ですので、歯茎の上に乗っかるような形態をしています。通常チェアサイドでは審美性(見た目)を考慮して歯茎との隙間を減らし見た目を自然な形にします。

しかしこの形では図のように汚れ(プラーク)が溜まりやすいので歯磨きが必要となります。訪問先患者さんの状態は様々で、ご自分で歯磨きができない方もいらっしゃいます。当然、ブリッジ部分には汚れが溜まります。このような場合審美性にはかけますが次の図のような形もあり、この方が食べ物や汚れはたまりにくいし清掃も楽です。多くの補綴物はご自分で歯科医院に足を運び、口を開け治療を受けられた時にセットされており、ご自分で口腔清掃ができていた時の形なのです。

3)入れ歯に関しても同じです。特に部分入れ歯には「クラスプ」と呼ばれる多くは金属製のバネがあり、このバネで歯をつかみます。義歯の着脱(つけたり外したり)はご自身にして頂きますが、施設利用者の方の中にはできない方もいらっしゃいます。この場合、施設スタッフの方がつけ外しをせざるを得ません。おおかた、クラスプは他人が付け外しするデザインではなく、他人の口の中の義歯の見えにくいクラスプに爪をかけて外すのは至難の技です。

4)歯が無い方が食べやすい。訪問先で多々あることです。前歯部分に本数の多いブリッジ(6本分8本分など)がセットしてあるけど歯周病でブリッジ全体がグラグラしている。噛まなければ痛みはないが、食事に時間がかかるし噛むと痛い。ミキサー食であってもグラグラブリッジが邪魔して食事時間が長くかかる。この場合、迷わずブリッジを除去します。歯を除去、抜歯、つまり歯が無い方が食べやすくなるケースもあるのです。

5)モグモグゴックンはひと続きではない。ある時「ゴックンしないので診てほしい」と依頼。その方は上下歯はなく入れ歯(総義歯)も使用せず。指を口腔内に入れるとモグモグされる。モグモグはできるのにゴックン(嚥下:えんげ)ができない。なぜだろうと舌を診てみると「舌根(ぜっこん)部がこわばって盛り上がっており、喉ちんこが見えない」・・原因はこれ?と思い、舌根部の機能回復をはかりました。詳しくは「BBTime 625 生きる入り口」に詳しく書いております。モグモグとゴックンは一連の動作行為ではなく、モグモグしてゴックンにバトンタッチしているのです。このバトンが上手につながらないとゴックンできないのです。

6)食思(しょくし)について。食思とは食欲、食い気のこと。施設の昼食準備を見ていると「普通食」「刻み食」「ミキサー食」など様々です。その方の摂食・咀嚼能力、利用者希望に合わせて準備されます。当然のことながらミキサー食は普通食に比べて、色彩・匂い香り・歯応えなどにおいて劣り、その分食欲減退につながります。いろいろな工夫が必要となります、詳しくは「BBTime 621 施設診療」をご参照ください。

7)食べるを治す。歯科医となって四十年近くなろうとしています。恥ずかしながら今頃になって歯科医の仕事は「食べるを治す」ことであると気が付きました(猛省)。ムシ歯の治療も歯周病の治療も入れ歯を作るのも全て「食べる」ためです。木を見て森を見ずでした、かと言って木の根元の笑茸もおそらく見ていなかったでしょう、精進します。皆様、ご自愛の程ご歯愛の程。


BBTime 584 ニセモノ買いの銭失い

「安物買いの銭失い」ことわざ

2022/07/31投稿 8/15追加
この諺は耳にしますが、タイトルは「ニセモノ買いの・・」。そんなの当たり前でしょ!と思いますが・・のお話。諺の意味はご存じの通り『安い物を買うと品質が悪かったり、すぐ傷んだりして、結局損をする』(引用元)。では「偽物買いの銭失い」は・・前置きがあります。「本物を易く(やすく)失い、ニセモノを高く買う」・・こんなバカなことする訳ないじゃん、と思われるでしょうが、多くの方がしていらっしゃるのです。

先日、時計修理屋さんとの会話に出てきたのが上の画像です。よく見てください、ちょっと違うでしょ。「レフティ」と呼ばれる左利きで竜頭の位置などが違います。レフティは生産数が少ないこともあって、市場価格が高騰しており新品よりも中古価格の方が数十万円も上だそうです。また、一昔前のロレックスを高値で売って、その利鞘で新品ロレックスを買う。数年後、また売って新品を買う。ロレックスマラソンと言われているとのこと。修理屋さん曰くひとこと「異常です」。さて質問「ここに偽物ロレックスがあります。非常によくできています、五十万円します。では、この偽物と同じタイプの本物にいくらの値段をつけますか?」おそらく偽物が五十万なら本物は「百万だろう」「本物なんだから二百万はするよ」・・いずれにせよ通常ならニセモノより本物が高い値がつきますよね。残念ながらこの真逆のことが、さも当たり前のこと日常茶飯事のこととして起きているのが「歯科治療」なんです。

画像は陶器の歯、どんなに上手な技工士さんが作っても「ニセモノ」です。だいたい1本十万円はします。陶器の歯が必要になった原因がムシ歯であったなら「本物を易く失い、偽物を高く買う」と言えるのです。

画像は「PMTC:ピーエムティシー」と呼ばれるプロケアです。過去に何度も書いていますが「歯は磨いても、もらうもの」であって、ご自分だけでムシ歯予防は不完全です、できません(と言えます)。たやすく本物を失い、高価なニセモノを買う羽目になる。これは人々(患者さん)だけの責任ではなく、歯科医師にも責任があります。歯磨きによるムシ歯予防は、人々がすべきこととしてきたことに誤りがあると思うのです。どうぞ考えを変えてください「歯は、磨いてももらうもの」。ニセモノ買いの銭失いにならぬよう、こまめにプロケアを受けることをオススメします。ひとつご注意ください!プロケアで歯を削ることはありません。いまだに「削ってなんぼ」と思う歯科医もいますので、この点はご注意ください。皆さま、ご自愛の程ご歯愛の程。

追加:文章中の「時計修理屋さん」。小生も修理ふたつと電池交換ひとつ、お願いしました。オススメします!インスタグラム@bleriots0819です。腕時計で困り事があれば是非!

BBTime 577 六月四日

「六月を奇麗な風の吹くことよ」正岡子規

2022/6/6投稿
好きな句です。解説には『前書きに「須磨」とある。したがって、句は明治二十八年七月下旬に、子規が須磨保養院で静養していたときのものだろう。つまり、新暦の「六月」ではない。旧暦から新暦に改暦されたのは、明治六年のことだ。詠まれた時点では二十年少々を経ているわけだが、人々にはまだ旧暦の感覚が根強く残っていたと思われる。戦後間もなくですら、私の田舎では旧暦の行事がいろいろと残っていたほどである。国が暦を換えたからといって、そう簡単に人々にしみついた感覚は変わるわけがない。「六月」と聞けば、大人たちには自然に「水無月」のことと受け取れたに違いない。ましてや、子規は慶応の生まれだ。須磨は海辺の土地だから、水無月ともなればさぞや暑かったろう。しかし、朝方だろうか。そんな土地にも、涼しい風の吹くときもある。それを「奇麗(きれい)な風」と言い止めたところに、斬新な響きがある。いかにも心地よげで、子規の体調の良さも感じられる。「綺麗」とは大ざっぱな言葉ではあるけれど、細やかな形容の言葉を使うよりも、吹く風の様子を大きく捉えることになって、かえってそれこそ心地が良い』(解説より抜粋)。今回は奇麗な口元、白い歯についてのお話。

白い歯と言いながら手塚治虫氏ですが、実は関係ありなんです。タイトルの「六月四日」は『「む(6)し(4)」(虫)と読む語呂合わせから。漫画家・手塚治虫らの呼びかけで1988年(昭和63年)に設立された日本昆虫クラブが「虫の日」を制定。昆虫が住める街づくりを目指している』(引用元)。6/4は「虫の日」なのです。

同じく「6と4」で『1928年(昭和3年)から1938年(昭和13年)まで日本歯科医師会が、「6(む)4(し)」にちなんで6月4日に「虫歯予防デー」を実施していました。1939年(昭和14年)から1941年(昭和16年)まで「護歯日」、1942年(昭和17年)に「健民ムシ歯予防運動」としていましたが、1943年から1947年までは中止されていました。しかし、1949年(昭和24年)、これを復活させる形で「口腔衛生週間」が制定されました。1952年(昭和27年)に「口腔衛生強調運動」、1956年(昭和31年)に再度「口腔衛生週間」に名称を変更し、1958年(昭和33年)から2012年(平成24年)まで「歯の衛生週間」、そして2013年(平成25年)より「歯と口の健康週間」になっています』(引用元はこちら)。さて、ご存じの方もいらっしゃると思いますが、去る四月からインレーに白い材料が保険適用になりました。(インレー:白い樹脂を詰める処置(1回で終わる)ではなく、型(印象)をとって次回歯にセット(2回必要)する処置)

CAD/CAMインレー:キャドキャムインレーと呼ばれるものです。今までも白いインレーはありましたが、材料がグレードアップしましたし、インレーの作り方が全く異なります(詳しくはこちらを)。患者さんの疑問について述べたいと思います。まず一番多い質問が「耐久性」について。銀色は「12%金銀パラジウム合金」と呼ばれる金属で、かたやCAD/CAMインレーは「ハイブリッドレジン」です。この材料だけを比較すれば金属であるパラジウム合金に軍配が上がります。ただしインレーを歯につける際に使用するセメントとの相性においては、CAD/CAMインレーの勝ちです。個人的意見としては「耐久性」に、ハズレにくいを加味すればどちらとも言えないと思います。CAD/CAMインレーに関してはネットにも記事が散見されます、こちらも是非どうぞ。

「割れやすい」からと金属インレーをすすめる歯科医もいます。嘘ではありませんが、CAD/CAMインレーの場合、もし欠けても場所によっては白い詰め物で修復可能です(CR充填)。敢えて付け足すなら・・その歯科医がCAD/CAMインレーに技術的に対応できていない場合もあります。CAD/CAMインレーは新しい材料ですので、当然のこと新しい技術が必要です(さほど難しくはないのですが)。

と言うことで、特に急ぐ必要のない部位であれば、銀色を白くするのをもう少し待つのも賢い選択です。また価格においては、セット時(完成時、歯にセットする時)の支払いに関してはCAD/CAMインレーの方が安いです。治療の部位が銀色になることは、小生の考えでは「治っていない」のと同じです。もともと白ければ、治療後も白いのが当たり前。今まで適切な材料がなかったために、白い歯が治療後は銀色になっていたのです。最後に、しつこいようですが、歯はもともと生えてきた時は白い奇麗な歯です。ムシ歯にしてしまうので「銀色か白か」と言うことになってしまうのです。ムシ歯にしなければ白いままなのです。一に予防二に予防です!皆さま、ご自愛の程ご歯愛の程。

BBTime 571 魔法ではない

「春昼や魔法の利かぬ魔法瓶」安住 敦

2022/4/26投稿
昔のことです(開業したての頃)。知り合いの方が「噛むと痛い」と来院。レントゲンみると歯周病が進行しており、着手するなら「抜歯です」と伝えると「悪い歯を抜くのではなく治すのが医療でしょ」とその方。んー「治療は魔法ではないので無理なものは無理です」と思いながらも「では、投薬しますので様子見ましょう」というのがやっとでした。句の解説は『真空状態を作って保温するという論理的な英語「vaccum bottle」に対し、何時間でもお湯が冷めない現象に着目し、日本では「魔法瓶」と命名された。どんなものにもよく書けるマジックインキ、愛犬に付いた草の実(おなもみ)がヒントとなったマジックテープなども、従来にない不思議な力を強調した「魔法/マジック」の用法だが、「魔法瓶」はなかでも突出して絶妙なネーミングである。他にも、来週に控える「黄金週間」やめくるめく「万華鏡」なども腕の立つ日本語職人の手になるものと思われる。掲句は、茶の間に鎮座するポットの仰々しいネーミングにくすりと笑う大人の視線だが、いかにもうららかな春の昼であることが、笑いを冷笑から、ユニークな名称の背景にある人間の体温を感じさせている』(解説より抜粋)。今回は目についた記事のご紹介。

その記事とは「入れ歯に認知症、誤嚥性肺炎…。知りたくなかった真実。日本は歯医者さんの「超後進国」だった」と少々ドキッとするタイトル。記事の中身は・・『残念ながら、現在の日本はれっきとした『歯科医療後進国』です。80歳時点で何本歯が残っているかを調査した国際的なデータがあります。スウェーデンは20本。アメリカは17本。イギリスが15本。そして日本は、わずか8本です。諸外国と比べて惨憺な状況と言わざるを得ません。男女の平均寿命では全世界トップクラスでありながら、歯はズタボロの状況。逆に言えば、この数字を上げれば、平均寿命や健康寿命もさらに上げられるのです』(抜粋)。

記事は続きます・・『日本人は、デンタルケアに関する意識関心が低すぎる。80歳の残歯率はその表れですが、ある雑誌が行なった60歳以上のビジネスマンに対するアンケートで、興味深いものがありました。「40代のうちにメンテナンスしておくべきだった体の部位」の第一位が「歯」だったんです。多くの方が歯を失って、初めてその大切さを痛感している。しかし、一度失った永久歯は、文字通り永久に生えてはこないんです。当たり前に思われているこのことを、いま一度考え直していただきたいと思っています』(記事より)。低すぎる・・低くなってしまったのです。単純に比較はできませんが、800年前のお坊さんは今以上に歯を磨いています。しかも砂糖がほとんど日常にない頃です。今でも、お寺や神社の「手水場:ちょうずば」で手や口を清めますよね。決して低かったのではないのです、低くなってしまったのです。詳しくはBBTime561「正法眼蔵」へ。

低くなってしまった理由は・・『そして皮肉なことに、日本のデンタルヘルスが著しく低いのは、世界に誇る国民皆保険制度が影響していると私は考えています。日本全国、どこへ行っても1割から3割の自己負担で「平等の医療」が受けられる。このシステムの功罪で、日本人の治療の内容が「及第点ギリギリ」となり、患者さんからも「予防医療」という概念を奪っているのです』・・この意見には賛成です。保険診療は今でも原則「疾病保険:しっぺい」です。病気でなければ保険証は使えません。そんなことはないでしょ!定期的に歯医者で保険内メンテナンスを受けてますけど・・。今度聞いてみてください。必ずや病名がついていて、その病名に必要な処置(治療)を受けていらっしゃるのです。

保険制度は歯科以外の病気には極めて良い制度でしょう。なぜなら殆どの病気において確実な予防方法は未だ確立されていません。しかし「歯科」は異なります、予防可能です。にもかかわらず、歯科医療も他の一般医科同様の保険制度であるために「歯科治療の悲劇」が起こり、その多くは連鎖してゆくのです。悲しいことです。最後に声を大にして言います!「歯は磨いても、もらうもの」これによって確実な予防が可能です。保険証は後手後手医療しかカバーしません。先手先手予防を是非あなたの意思で!セラミックの歯であろうとインプランであろうと所詮「偽物」に過ぎません。生まれ持ったあなたの歯をご自愛の程。皆さま、ご歯愛の程。

BBTime 569 パラジウム

「総金歯の美少女のごとき春夕焼」高山れおな

2022/4/17投稿
日々報道に接するたび、鬱々となります。句の解説には『季語は「春夕焼」。単に夕焼といえば、盛んに見られる夏の季語だ。夕焼は四季を問わずに出現するが、春の夕焼は柔らかな感じがするので、他の季節のそれとは区別してきた。で、この一般的なイメージに逆らっているのが、掲句。「よく見てご覧。そんなにうっとりと見つめられるような現象でもないよ」と、言っている。例えれば色白の「美少女」の柔らかい頬が少しゆるんで、にいっと「総金歯」が剥き出しになっているようじゃないか。そんな不気味なまがまがしさを含んだものとして、作者には見えている。』(解説より抜粋)。今回は歯科治療で使用する金属「パラジウム」について。

近頃、歯科用金属であるパラジウムに関する報道を続けて目にしました。
まずはこの記事「辻二郎氏死去 パラジウム触媒研究の先駆者」です。『希少金属のパラジウムを触媒に用い、炭素同士の結合を実現できることを世界で初めて見いだした。2010年のノーベル化学賞を受賞した鈴木章・北海道大名誉教授(91)らが開発した「クロスカップリング反応」の礎となった』(記事より抜粋)。パラジウムが車の排ガス浄化装置に触媒として使用されるために近年、パラジウム価格が高騰して来ています。加えて今回のウクライナ戦争により高騰に拍車がかかりました。

パラジウム高騰は保険診療価格にも影響が出ています。記事「銀歯治療が値上げ、ロシア産の金属「パラジウム」高騰で…1歯で180円程度」。記事によると『厚生労働省は13日、歯科の銀歯治療で用いる金属「パラジウム合金」について、5月に公定価格を約8%引き上げることを決めた。患者の窓口負担も増え、3割負担の場合、奥歯に詰め物を入れる治療では1歯あたり180円程度の負担増が想定される。ロシアのウクライナ侵攻に伴う価格高騰を受けた緊急措置として、同日開かれた厚労相の諮問機関・中央社会保険医療協議会で了承された。』(記事より抜粋)。約一年前にも「BBTime518 記事ふたつ」にも書いております、ご参照のほど。

さて、遡ること八年ほど前に白い冠(被せ物:クラウン)が条件付きで保険適用となりました。CAD/CAM冠(キャドキャムかん)と呼ばれるものです。昨年九月より適用部位が拡大され、条件を満たせば一番前の前歯から六番目の奥歯まで可能です。今月四月からは歯の一部分を詰めるインレーも条件付きですがCAD/CAMインレーが保険適用となりました。パラジウムの今や天井無しの価格高騰の影響(お陰)でしょう。ちなみにパラジウム合金インレーのセット時負担金は歯一本おおよそ3000円弱で、CAD/CAMインレーなら約3500円となり、500円程度の差があります。材料費はパラジウムインレーの方が高いのですが、CAD/CAMインレーは技術料(いわば歯科医の技術費)が高いために、CAD/CAMインレーの方が高くなってしまいます。この技術料の差を裏読みすると・・従来のインレー(メタル・レジン)よりも高度な技術を必要とするということです。お分かりですね・・銀色のインレーを白くしたい時には上手な歯科医を選びましょう(けど、どうやって選ぶの?)。CAD/CAM=Cumputer aided design / Computer aided manufacture

今回は車の排ガス規制とウクライナ戦争によって、レアメタルであるパラジウムの価格が高騰していること。その影響でCAD/CAMインレー(樹脂の白いインレー)が保険導入されたこと。そのインレーにはより高度な技術が必要であること。これら大きく三点についての話でした。皆さま、ご自愛の程ご歯愛の程。5590

BBTime 565 外方向かれる

「たんぽぽのサラダの話野の話」高野素十

2022/3/15投稿 3/18合格率について追加
春になると好きなこの句を思い出し、今年こそは「たんぽぽサラダ」を食べようと思いながら未だ実現せず。『たんぽぽが食べられるとは、知らなかった。作者も同様で、「たんぽぽのサラダの話」に身を乗り出している。「アクが強そうだけど」なんて質問をしたりしている。そこから話は発展して野の植物全般に及び、「アレも食べられるんじゃないか、食べたくはないけれど」など、話に花が咲き、楽しい話は尽きそうにもない。』(解説より一部抜粋)。今回は好きの反対と言える「ソッポ向かれる」について。

先日のこと、九州南部地方都市の駅窓口に「受付は夜七時で終了します」との知らせ、ショックでした。今まで仕事帰りに次回の切符を買っていたものですから・・。昨春、二枚切符が廃止され、通常購入より安くなるネット購入を利用。ネット決済しても事前に駅窓口で紙切符購入が必要です。にもかかわらず、窓口購入可能は朝7:30から19:00までとなったのです。ネット予約切符は券売機では買えません。年々、JRのサービスが低下していると思ってしまいます。

ネット利用は客のためではなく「 JR職員」のためなんですね(きっと)。小生思うに「客の方を見ていないと外方向かれますよ」。郵便事業然り。昔、永六輔さんがラジオで「年賀状の早目の投函を呼び掛けるのであれば、安くすべきじゃないの?」・・賛成!郵便局員のために早く投函するわけですから「早割」があって然るべきです。その郵便、さらにサービス低下の報道を先日耳にしました。多くの人が年賀状から離れていくのも頷けます。以前は年賀状以外にも「なんとかメール」と銘打って盛んに宣伝していましたが、今もあるのでしょうか。客が離れるのも当たり前でしょう。その点、クロネコはエライと思います。郵便に関しては昔ブログに書いておりました、「郵便局のサービスは?」ご参照の程。JRもJPも民営化されたとは言え、公共インフラですから存続するでしょうけど愛されなくなるかも知れませんね。

「客を見ていない」は人事(ひとごと)ではないのです、歯科医師も同じ。「歯科治療」にのみ注力していると、近い将来必ずやソッポ向かれます。何度も書きますが「ムシ歯はほぼ完全に予防できます、回避できます」。にもかかわらず「待ちぼうけよろしく、診療所内で「ムシ歯の患者さん」を待っているのでは、歯科医師の未来は今以上に暗くなるでしょう。歯科治療は「人の不幸がメシの種」かたや歯科予防は「人の喜びが種」です。

「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ」坪内稔典
ちなみにタンポポを英語でdandelion:ダンデライオン。文字通り「ライオンの歯」詳しくはこちら。JRも郵便も歯科医療も「おしりに火が・・」なのかも知れません。皆さま、ご自愛の程ご歯愛の程。

追加:外方むかれている根拠「合格率最低」について
3/16に厚労省が発表しました。記事では『厚生労働省は2022年3月16日午後2時、医師国家試験と歯科医師国家試験合格発表を行った。合格率は、医師が91.7%、歯科医師が61.6%。前年(2021年)の合格率と比較すると、医師は0.3ポイント増加、歯科医師は3ポイント減少となった』(引用元)。医師より30%も低い合格率です、単純に考えると医師より歯科医師の方が1.5倍難しいと言えます。大学入試の偏差値では医学部の方が歯学部より高いのに、最終ゴールである国家試験において歯学部の方がかなり狭き門であるとは不思議だと思いませんか。しかも今年(2022年)の合格率は調べた範囲では戦後最低、ということは現行国家試験において最低です。一説によると「医師は何点以上は合格」に対して「歯科医師は上から何人」で合否を決めているとのこと。ズバリ歯科医師は2,000人です(今年は1969人)。すなわち、厚労省は歯科医師数は十分足りていて、これ以上は必要ないと見ているようです。完全に外方向かれています!さて、どうする?


BBTime 563 Say No!

「耕人は立てりしんかんたる否定」加藤郁乎

2022/3/9投稿
まずは句の解説から『土とともに生きるのは容易なことではない。農家の子供だった私には、よくわかる。いかに農業が機械化されても、同じことだ。春先、田畑をすき返す仕事はおのれの命運をかけるのだから、厳粛な気持ちを抱かざるを得ない。春の風物詩だなんて、とんでもないことである。この句は、土とともに生きてはいない作者が、土とともに生きる人の厳粛な一瞬と切り結んだ詩。かつての父母など百姓の姿も、まさに「しんかんたる否定」そのものとして、田畑に立っていたことを思い出す。いまどきの人の安易な農業嗜好をも、句はきっぱりと否定している』(解説より)。最近目についた記事二つご紹介します。

ひとつ目は『歯科業界に横行するカネ儲け主義 高額医療への誘導を“撃退”するベストな方法を指南』(出典はこちら)。仰々しいタイトルですが結論は極めてシンプルで「Say No!」「いいえ!」「考えてみます」「今回は結構です」などと断ることです。記事には『そこは初めての歯科医院だったのですが、自由診療(保険外治療)を勧めてくるので、保険でお願いしたいと伝えると、先生の口調が急に不機嫌そうになった。そして『保険だと、歯を残せないよ』という。もうかかりたくないのですが、しっかり断ることができなくて困っています』『「自由診療のほうが適切な場合があるのは事実。しかし、自由診療なら歯が残せて、保険診療だとうまくいかないというケースはほとんどありません。明らかに、高額医療への誘導です」  そんなことを平気で口にする歯科医師は許しがたいと話す斎藤氏だが、最近そうした傾向がより強くなっているという』(引用元)。

小生(歯科医師)からすると「断りにくい」がピンときません。記事にも『斎藤氏は「患者さんは自分の考えをはっきり、歯科医師に伝えるべきです。遠慮する必要ありません」と話す』。医療と言えど、ある意味買い物ですので納得いかなければ、気が進まなければ「買いません」「他の商品はないのですか?」など言うべきだと思います。また現実的には、いきなり「保険の歯にしますか?陶器の歯にしますか?」の場面は来ません。初めての歯科診療所・歯科医師であっても1回目2回目と重ねるごとに「なんか違うな」「儲け主義かも」などの雰囲気を感じると思います。これは「私の望む歯科治療・治療方針ではない」と思ったら、次回予約時に「予定が分かりませんので、こちらから電話します」と言って去るのがスマートでしょう。

記事は続きます『「一度、不信感を覚えた歯科医師のもとで治療を続けるのは、苦痛以外の何物でもない。やはり、別の歯科医院に変えるほかはないような気がします」  ただ、それを言い出すにはかなりの勇気がいる。「別の医院に行きます」と言える患者は現実には少ないだろう。毎回、診察が終わると、うながされるがままに次の予約を入れて、ずるずると通院を続けてしまうのだ』。記事には「勇気がいる」とか「ずるずる」などとありますが、これが事実だとすると患者さん側にも問題があります。はっきり言いますけど「ご自分の体」ですよ、「一度削られたら元に戻らない」のですよ、それなのに義理人情で治療続けるのですか?歯科医師歯科診療所は十人十色、ピンからキリまでいます。「違う」「やばい」と思ったら無断キャンセルであろうが「電話します」でもいいので止めるべきです。あなたの歯を守るのはあなたしかいません・・ただし「あなただけで完璧に守れないのも事実です」。となるとベストな方法は後手後手医療から先手先手予防に考えを変えることです。

二つ目の記事は『ウクライナ侵攻 銀歯の材料「パラジウム」価格急上昇で危機感』。ご存じかも知れませんが、歯科用金属の金銀パラジウム合金(金パラ)には20%のパラジウムが含まれています。『仕入れ価格は30グラムあたり2万円近く値上がりして、診療報酬の基準となる価格よりも1万円以上、高くなっているということです。金銀パラジウム合金の価格は、これまでも上昇傾向にありましたが、ウクライナ情勢の悪化が追い打ちをかけているとしていて、歯科医院ではこのまま価格の高騰が続けば、持ち出しが増え、経営を圧迫して、人件費などを削らざるを得なくなると、危機感を募らせています』(引用元)。ひょっとするとパラジウムの高騰を理由に、保険外の被せ物を勧める歯科医がいるかも知れませんが、保険診療は価格(保険点数)が決まっていますので、患者さんには無関係な話です。また現在保険では、条件付きですが6番目の歯までは白い被せ物(CADCAM冠:キャドキャムかん)が保険適用です。歯医者が削る前に「被せ物は白ですか?銀色ですか?」と確認されることを強く勧めます。もし、突然歯医者が削り始めたら左手を上げてうがいを希望し質問された方がよろしいかと。

今からでも遅くありません、まずは予防(歯石取り・クリーニング)で受診されることをお勧めします。不幸にも治療(削ること)が必要な場合は、削られる前になんの目的でどのような治療なのかをしつこいまでに聞くこと。そうして納得いかなければ「その治療は次にしてください」と言って次の予約を入れないことです。皆さま、くれぐれもご自愛の程ご歯愛の程。