BBTime 235 推定無罪

BBTime 235 推定無罪
「夜の雲やラムネの玉は壜の中」真鍋呉夫

誰しも同じでしょうが、幼い頃初めてラムネを見たときに「なぜビー玉が壜の中に?」と不思議でした。小生にとってはラムネ(瓶ジュース)よりもビー玉が先に人生に登場していましたので尚更(なおさら)。さてタイトルの「推定無罪」映画好きの方はビンと来られたかも、そうですハリソン・フォード主演の映画。前回「矛盾」で「彼に罪はありません」と書いて、ふと「罪はない」を強く感じることあって今回のお話。

ムシ歯発生において彼(小二男子)に罪がないのと同様、治療後同じ歯の問題発生においてもその方(患者さん)に「罪はない」と感じる場面が多々あります。小生開業間もない頃に男性の奥歯の治療(神経を抜いて薬を詰める)をしたところ、ちょうど一年後に「同じ歯が痛みます」「神経抜いたんでしょ、なぜ痛みが再発するんですか?」・・「そりゃあ、神経抜いたと言ってもそれは歯の中の神経で、その先(根っこの周りの骨)の神経は有るんだから、当たり前じゃん(しょうがないよな)」「再発ではなくて新たな炎症だよ、それは」と思いながら苦しい説明をしたことがあります。

話飛びますが学生時代はラグビーの日々でした。今回のアメフトの件、誰に一番重い罪が有るのかは推定できます。「あいつを潰せ」とは「怪我させろ」「(その試合で)プレーできないような(身体的)ダメージを与えろ」の意味以外ありません・・ただし正当なるタックルや強い当たりの結果です。正当タックルでタックルを受けた選手が負傷しても、タックルした選手は無罪です。

同じ歯に痛みや問題発生の場合、有罪(犯人)は誰?ケースによって様々です。患者さん本人、治療した歯科医、どちらでも無い場合(加齢によるものなど)が考えられます。今回知って欲しいのは「どう見てもこれは前医(前に治療した歯科医)の責任だろう」の問題発生(痛み・腫れ・外れたなど)が目に余るということ。もちろん小生が治療した後にも同じこと(小生治療が原因で問題発生)があったでしょうし、これからも起こりうるでしょう。再発において患者さん「推定無罪」のケースは相当数有ると思います。それらの治療費やおそらく億単位でしょう。

「それを言っちゃあ、おしまいよ」とは寅さんのひと言。我が身(歯科医)を庇う訳ではないのですが、歯科医にもそれなりの言い訳はあります。「歯科治療にも限度あり」「歯科医も人の子、神ではない」「見えないところを治療するんだから(根の治療など)」・・歯の詰め物をイメージして見てください。「ムシ歯の部分をとって(削って)樹脂を詰めますね」日々行われる代表的な充填(じゅうてん)という治療、ムシ歯を削ると言ってもどこからどこまでがムシ歯なのかは本当のところはわからないのです。軟化象牙質(なんかぞうげしつ、ムシ歯のこと)除去とは厳密には顕微鏡で見ないと判別はできませんし、顕微鏡で見るためにはその歯を抜いてそれなりの処理が必要です。このような言い訳をあげ始めたらきりがありません。

これまた「それを言っちゃあ、おしまいよ」と聞こえてきそうですが「予防に勝る治療なし」・・これでおしまいにしたらプロ(歯科医)ではありませんのでひと言。日本では予防は大まか本人(患者さん)任せで、治療は保険適用となります。発症予測が困難なほとんどの病気、因果関係が明白ではない多くの病気において「医療保険制度」は有難く便利なものですが、ムシ歯は異なります・・因果関係がほぼ明らかであり、予測可能です。にもかかわらず他の病気同様の医療システム・保険診療の扱いです。端的にいうと「予防を保険内で」「治療は保険外で」に徐々にシフトすべきです・・と言っても今後五十年いや百年経っても変わらないでしょう。ホメオスタシスが働きますから(笑)。

現保険制度では歯科医において、雑に言うと「削ってなんぼ」「治療してなんぼ」です。治療すればするほど歯科医の収入は増えます・・逆(患者さん側)から見ると削られるほど高い治療費を支払い、削られるほど再発リスクが高まります。患者さんに「治療(歯を削る)受けるより予防がいいですよ」「治療費を払うより予防費を払いましょう」「作り物のセラミックの歯より本物の方が良いですよ」と言うと皆さん全員「そうですね」と同意されますが・・「予防費用は月に一回で 3000円です、一日あたり百円の自己投資ですよ」と聞いて「それは安い、喜んで通います」と実際に通う方が少ないのも事実です。「予防って歯磨きでしょ、歯磨きなら自宅でできるわ」「お金払うの?」と思われる方が多いのも事実でしょう。(価格はそれぞれです、月5000円もあるし月1万もあるし)

エンハンサー」「矛盾」と今回、歯科予防について書きました。今はイギリスで18世紀後半に始まった産業革命以来の大変革期にあると言われます。今あなたが手にしているスマホを見れば一目瞭然です。あと数年(2025年ごろ)で車社会が大きく変化すると有識者は説きます。ガソリン車が電気自動車に変わるのみならず、利用する人々すなわち一般大衆の意識や考えが大きく変革するからだと説きます。歯科予防も同様の変革が起きると予測します、生まれ持っての「白い歯」を自分で「育てて使って守るものなんだ」への変化です。この変革の小さな一翼を担う、担いたいとの日々・・。

最後に冒頭の句の解説がこれまたスゴイと言うか深いというか・・小生ならラムネのイメージは昼間であり超明るいのですが解説には・・「一読、漠然たる不安な感じに誘われた。(中略)壜は文明社会を暗示しており、玉は好むと好まざるとに関わらず文明社会に取り込まれた人間存在の比喩となるだろう」こちらも是非お読みください。蛇足です、ビー玉が壜の中にあるように雲も壜の中にあります(よくご覧ください、確かにあります)。3480
今回の一言:多くの患者さんは推定無罪
今回の楽曲:映画推定無罪の音楽担当のジョン・ウイリアムズより

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